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2009-06

ワインコラム 第17回 フランスにおけるミシュランガイドとレストラン

私は3回に分けて、合計で2年と3ヵ月フランスで暮らしましたが、どの滞在中も期限付きだったためにできるだけいろいろな経験をしようと思っていました。殊に、「食」に関してはいろいろ冒険しました。フランスの食材、調理法などにとても興味があったので、日本食が恋しくなることもなく、ひたすらフランスの食文化を探っていました。

 

みなさまは、「フランス料理」というとどのようなイメージをお持ちでしょうか?

 

恐らく、絵画のように美しく飾り立てられた、目にも鮮やかな高級料理を連想される方が多いかと思います。

 

それはそれで一つの真実です。フランス料理を世界に知らしめたのはそのようなスタイルの料理でしょう。しかし、私たち日本人が毎日懐石料理や寿司を食べていないのと同様、フランス人も毎日フォワ・グラやキャビアを食べているわけではありません。

 

例えば日常生活でいうと、一般的なフランス人は大きなスーパーマーケット(もしくは巨大なハイパー・マーケット)で食材を買います。ハム、サラミなどの肉類、チーズ、バターなどの乳製品、野菜、果物...

 

日本と比べて驚くほど異なる食文化ではないと思います。食生活において、日本とフランスの大きな違いは、やはりパンか米か、でしょうか。パンの消費量は日本人の比ではないと思います。フランス人はそれこそ小さな小さなときからパンを食べて育ってきているので、パンに対するこだわりというか、パンに対する「慣れ」があり、他の食材はスーパーで買ってもパンだけは専門店(パン屋=ブランジュリー)で買うという人もいます。フランスにも様々なパンがありますが、一番消費されているのがバゲットbaguette(=棒の意。日本人が使う箸のこともバゲットと言います。)です。俗に言うフランス・パンですね。細長くて普通の袋には入らないので、みんな手に持って歩いています。よく見ると先端が食べられていたりします(笑)。

 

私が大好きだった(今でも大好きですが)のはおいしいバゲットと、状態のいいチーズ、それにワインだけの、シンプルですが贅沢な組み合わせでした。この「黄金の」組み合わせは、驚くほどお互いを引き立て合い、まさにマリアージュmariage=結婚だなあと思ったものです。

 

この組み合わせの、チーズの部分を肉類加工品に換えても最高です。フランス料理で「豚肉」のイメージはあまりないかもしれませんが、フランス人は実にたくさんの豚肉を加工品として(もちろん加工品としてではなくても)消費します。代表的なものが生ハムJambon Cruです。他にパテpâté、サラミsaucissonなどなど。

 

これらは家庭でよく消費されますが、レストランでも登場します。

 

ここで、フランス料理の構成について少しお話します。

 

フランス料理は一般的に、前菜Entée、主菜Plat、デザートDessertで構成されています。もっと豪華な場合は主菜が魚料理と肉料理両方出たりして、皿数が増えます。逆にお昼などはより簡単に、皿数が減ります。レストランなどでは、最初の前菜が出されてそれを完食するとお皿が下げられ次の料理が出てくる流れになっています。

 

話を戻すと、肉類加工品は前菜として頻繁に登場します。レストランの格にもよりますが、一般的に家庭で食べるものより上質なものが提供されます。

 

ワインもそうですが、ヨーロッパでは「高級食材=限定された原産地で育った個性的な食材」と定義できると思います。なので、例えばレストランで出される生ハムは「バイヨンヌの生ハム」など産地表示があることがあります。このような食材は素直においしいのですが、やはりその土地が育んだ特有の風味があるようです。

 

さて、レストランの格と書きましたが、具体的にはどのような違いがレストランの格の違いに結びつくのでしょうか?

 

元となるのが、オーナーの意向でしょう。高級食材を使った最高の料理をきちんとしたホール・スタッフがお客様に提供する高級店か、カジュアルな雰囲気で、気取らない料理を出す普段使いの店か...

 

日本で「レストラン」というと単に外食をする店というイメージですよね。「ファミリー・レストラン」というものがそれを象徴しているように思います。フランスでは、料理店はそのスタイルにより呼び名が変わります。いわゆるカジュアルなレストランは「ビストロBistro」、もっとくだけた雰囲気のところは「カフェcafé」と表記するところもあります。「レストランrestaurant」は一般的にはテーブルクロスがかけられたきれいなテーブルで、手間暇かけて調理された料理を味わう高級店です。

ajaccio ビストロのテーブル

bernard-loiseau2 レストランのテーブル

 

それぞれの目的=スタイルを確立するために、自然と内装、料理が決まってきます。ビストロでは布のクロスではなく紙のクロスがテーブルに敷かれることが多いようです。高級なレストランで家庭でもできるようなシンプルな料理を出すお店はほとんどないでしょう。

 

重要な事柄として、「サービス」も忘れてはなりません。サービスとは、ホール・スタッフによる接客を意味します。スタッフからお客様へのアプローチ、お客様からスタッフへの要望に対する対応などです。最高の料理を出すお店があるとして、それを提供するスタッフのサービスが悪かったら、最終的にそのお店に対して良い印象は残らないですよね。逆に、料理は最高とは言えなくても、サービスが良いからまた行きたくなる店というのもあると思います。そう言った意味でサービスとは実に重要な要素だと思います。

 

日本でも話題になりましたが、フランスには「ミシュランMichelin」社によるレストラン・ガイドが広く普及しています。その実態は、レストランとホテルを独自の基準で格付けして紹介しているものです。レストランの評価において、特に優れたレストランは星☆付きで紹介されています。一つ星☆から三つ星☆☆☆まであり、最高評価の3つ星評価を手に入れたレストランには成功が約束されます。単なるレストラン・ガイドの枠を超えた、社会的に注目される出版物です。

 

次回は私が実際に訪れた、ミシュラン推薦のお店のお話です。

 

 

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ワインコラム 第16回 イタリア ピエモンテPiemonte編

フランスと並び、世界1位のワイン生産量を誇る(年によりフランスかイタリア、どちらかが首位になります。)ワイン大国イタリア。20ある州全てでワイン造りが行われている、まさに「ワイン王国」です。イタリアワインの面白さは、地方ごとに独特の品種があり、実に多様性に富むワインに満ちていることではないでしょうか。今回はその中でもトスカーナ州と並び2大銘醸地と言われるピエモンテ州をご紹介したいと思います。

 

私は個人的にイタリアが大好きです。初めてのヨーロッパ旅行もイタリアから入ったのですが、自分の車で本格的にワイン産地を巡ったのは2005年のことです。

 

ピエモンテ州はイタリア北部に位置し、フランスと国境を接しています。私はフランスのサヴォワ地方Savoieからアルプス山脈を越えてイタリアに入りました。5月でしたがところどころに雪が残っており、アルプスの険しい岩肌、生命力あふれる木々の緑、青い空のコントラストに感動の、本当に美しいドライヴでした。

 

山を降り、ピエモンテ州の州都であるトリノtrinoに着きました。私はイタリア語がわかりませんし、イタリアでの運転も初めてだったのでこの町からどのように進んだらよいのか迷いましたが、アルバAlbaと言う町を経由して、なんとか目的地であるバルバレスコBarbaresco村にたどり着きました。

 

ピエモンテ州を代表するぶどう品種と言えば、ネッビオーロNebbioloという黒ぶどうで異論ないでしょう。バルバレスコ村から程近くにバローロBaroloというワインの産地がありますが、ネッビオーロからできるバローロは「ワインの王、王のワイン」という誇らしげな呼び名を持っています。

 

バルバレスコはバローロの弟分と表現されることがありますが、同じくネッビオーロ100%で造られる長期熟成に向く重厚なワインです。

 

初めて訪れたバルバレスコ村は、有名なワイン産地らしくぶどう畑に囲まれて...というより本当に田舎で畑以外に何もないような...美しいところでした。

 

夕方に着いたのですが、ホテルが決まっていません。そのような状況下、ありがたいことに観光案内所があり、そこの人がとても親切で、数件の宿泊所に電話をしてくれました。その結果、今日泊まることになったのはバルバレスコ村の民宿です!「アグリツーリズモ」という単語がありますね。農家が宿をやっているところですが、私がお世話になったのもまさにそのようなところでした。ワイン農家さんです。本当に畑ばかりの土地でしたから、私がこのようなところに泊まることになったのも、考えてみれば自然な流れと言えるでしょう。

 

夜はこのような小さな村にある、ミシュラン一つ星のレストランアンティネAntinèに行きました。選んだワインはバルバレスコのみならずイタリアを代表する造り手、ガイヤGaja。凝縮されていると同時に磨き抜かれた洗練を感じさせるワインで、素晴らしかったです!

 

翌日、バルバレスコ・ワインを産する村のひとつネイヴェNeiveにあるブルノ・ジャコーザBruno Giacosaを訪れました。伝統的ワイン産地であるバルバレスコですが、今日のワインのスタイルは大きく3つにわかれています。伝統的にワインを大きな樽でじっくりと熟成させる「伝統派」と、ボルドー地方で使われているバリックBarriqueと呼ばれる225ℓ容量の小さな樽で比較的短期間ワインを熟成させる「モダン派」と、両者折衷型の「中道派」です。高級ワインは嗜好品なのでどれがよいとは言えないのですが、どのスタイルでもトップ生産者のワインは言葉で表現するのが難しいほど素晴らしいものです。ブルノ・ジャコーザは伝統派のトップクラスの造り手で、私はこの訪問を楽しみにしていました。

 

みなさん、イタリア人と聞くと、どのようなイメージがありますか?陽気で、人生を楽しむのが上手で...というような明るいイメージではないですか?実際そのような人が多いように思うのですが、ここで私を案内してくれたイタリア人男性は「シリアス」としか言いようのない人でした。本当に真剣にワイン造りに取り組んでいるのがびしびし伝わってきます。日本の伝統文化を受け継ぐ職人のような雰囲気かもしれません。それは「ここで働けるのは名誉なことだと思っています。」という彼の言葉にも表れている気がします。ワインは偉大な土地の力を表現しきったような偉大なものでした。ゆっくり、時間をかけて飲んでみたいものです。

 

昼食を比較的大きな町アルバで簡単に済ませ、午後はあの「ワインの王、王のワイン」バローロの造り手、チェレットCerettoを訪れました。バローロもバルバレスコ同様3つのスタイルのワインに分けられますが、チェレットはモダン派に属し、様々なワインを造っています。ワイナリーは小高い丘の上にあり、そこから見下ろすすり鉢状の畑の眺望は素晴らしかったです。

ceretto2

ワインも然り、畑名入りのバローロは同じネッビオーロから造られるワインでありながらブルノ・ジャコーザのものとは違った表情で、素晴らしく上質という共通点以外、細部が異なり面白いテイスティングでした。

 

バルバレスコもそうでしたが、バローロの辺りは土地が起伏に富み、畑が細分化されていて日当たりのよい優れた畑のぶどうからできるワインが上質であることが多いです。そういった点がブルゴーニュに似ているな、と思います。ブルゴーニュと似ていると思わせる点はまだあります。生産者の規模が比較的小さいということです。自らが所有する小さな畑で一生懸命働き極上のぶどうを収穫し、それをワインに変える。こうした素晴らしい仕事をしている造り手さんが群雄割拠しているしているような土地です。

 

この訪問では駆け足で伝統派、モダン派の巨匠(バローロのモダン派のトップクラスの造り手として、ロベルト・ヴォエルツィオが挙げられます。Clos Yではこの造り手を取り上げたレストラン講座を企画しています。なかなか入手困難な極上ワインを楽しめるチャンスですよ!)を訪問しただけで終わってしまいましたが、次に訪問する機会があればじっくりと複数の造り手さんを訪問して、話を聞いてみたいものです。情熱と、時間を傾ける価値のあるワイン産地であることは間違いありませんから。

 

 

次回はミシュラン星付きレストランのお話です。

 

 

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ワインコラム 第15回 Bistro du Sommelier ビストロ・デュ・ソムリエでの日々編 その2

今回は、ボルドー中心部に位置するビストロ・デュ・ソムリエBistro du Sommelierでの仕事をご紹介いたします。

 

営業は12時から始まります。昼前に出勤し、掃除など準備をして、オープン前にみんなで簡単な食事をします。ひき肉のステーキSteak Hachéや鶏肉のトマト煮込みなどがよく登場しました。それに、日本では考えられないことですが、ワインもみんなで飲みました。もちろん、優雅に高級ワインを飲むわけではありません。ここにあったのは嗜好品としてのワインではなく、必需品としてのワインでした。フランスですね!

 

お客様も昼からワインを召し上がります。特に、夏になるとテラス席がオープンするのですが、実にたくさんのお客様がボトルでロゼを注文し、飲んでいたのが印象的でした。それまで私はロゼワインをどのように楽しんだらよいのかわからなかったのですが、このような状況では最高のワインだと思います。夏の、暑い、乾いたヨーロッパで、木陰で心地よい風を浴びながらロゼワインを傾ける... 情緒的です!

 

夜は昼営業と少し違う雰囲気です。ワインは赤ワインがよく出ていましたが、ソムリエとしての仕事はお客様に食前酒を伺うことから始まります。ほとんどのお客様が食前酒を召し上がっていました。多かったのはシャンパーニュですが、ソーテルヌSauternes リレLilletのような甘口ワイン(リレはボルドー地方のワインをベースに、スパイスやハーブなどで風味づけをした甘いお酒です。赤と白があります。どちらも良く冷やしてそのままいただきます。)もよくオーダーされました。食前に甘口ワインも素敵ですね!

 

料理は気軽な「ビストロ風」のものですが、地元の食材を大切にしていました。前菜で人気だったのが生牡蠣です。ボルドー地方ではアルカッションという港町で牡蠣の養殖が行われています。そこから届く新鮮な牡蠣に、あつあつのソーセージを添えて提供していましたが、生牡蠣と焼きソーセージ、合うのでしょうか??一度試してみてください。後悔はしないと思います!ソムリエとしても、リストには赤ワインのほうが圧倒的に多いため、生牡蠣にソーセージがつくと赤ワインも勧めやすくなります。

 

印象的だった料理は豚の内臓を使ったある種のソーセージのような冷前菜「グルニエ・メドカン Grenier Médocain」、たっぷりとボリュームのある生肉ステーキ「タルタル・ド・ブフ Tartare de Boeuf」、骨付きの分厚い巨大な肉塊「コート・ド・ブフ Côte de Boeuf」などです。肉料理には付け合わせとしてフライド・ポテトが出ます。それは冷凍のものではなく、毎日大量のじゃがいもを手作業で洗い、切り、揚げ、大きめの塩の結晶を振りかけて提供します。あつあつのものは口の中で溶けるような、クリーミーとでも言えそうな絶品でした!

 

あと、フランスのレストランで重要なものとして、パンが挙げられると思います。ビストロ・デュ・ソムリエには毎日パン屋さんがパンを届けてくれるのですが、これが本当に素晴らしかった!!このパン屋さん、昔ながらの作り方で、木を燃やす窯でパンを焼いています。厚みのある、硬いけれども味のある皮はコーヒーのような香ばしさがあり、たっぷり詰まった中身は感動的なほどもちもちでした...

 

さて、ここでひとつ問題です。ソムリエはこのパン屋さんにあるものを渡して、それをパン作りに役立ててもらうのですが、それは一体何でしょう?4択にします。

 

1、 ワイン (大量に飲んでもらって、テンションを上げていただく)

2、酵母 (ワイン造りに使う酵母をパン作りにも使ってもらう)

3、木 (高級ワインは木のケースに入っているため、納品後の空き木箱を薪として使っていただく)

4、愛情 (!)

 

迷いますね。恐らく1番か4番で迷うと思うのですが、正解は...

 

3番です!

当たった方、おめでとうございます!

 

さて、広いお店でしたので、営業中はばたばたとしていましたが、ソムリエの仕事はお客様にワインをサービスするだけではありません。営業前後の仕事も重要です。大変だったのが、ワインの搬入です。毎日大量のワインが出ますので、納品されるワインも大量です。お店の地下にカーヴがあるので、納品されたワインを下ろさないといけないのですが...

 

納品され、高く積まれたワインケースの「壁」を初めて見た時は「よし、帰ろう!」と思いました(笑)。

手作業で、階段を降りワインケースを地下に入れていきます。腕も足も腰も疲労困憊でした!筋肉痛になったものです。

 

しかしいい経験でした。お客様も個性的な方がいて、童話から出てきたようなかわいい双子のおじいちゃんや、土地柄有名シャトーのオーナーなども頻繁に来店されました。貴重なワインをテイスティングする機会もありました。私のフランス語も、ここで働いた間に急激に上達したと思います。時にはお客様に発音を直されながら(笑)。

 

私はフランスのレストランが好きです。理由はいろいろあると思いますが、レストランのサービススタッフとお客の距離(物理的なものではなく)が近いことが一番の理由かもしれません。あと、地元の食材と地元のワインを合わせるのは至福ですね...!!

 

さて、ここ数回フランスの話が続きましたので、次回はイタリアのお話を書きたいと思います。

 

 

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ワインコラム 第14回 Bistro du Sommelier ビストロ・デュ・ソムリエでの日々編 その1

2004年、私はワインの勉強のために会社を辞め、ワーキング・ホリデー・ビザとともに向かったボルドーで、9月、10月とシャトー・ラトゥール・マルティヤック Château Latour-Martillacで働きました。できれば通年シャトーで働きたかったのですが、忙しかった収穫時期が過ぎると突然ワイナリーは静かになります。「新しい作業ができたら連絡するから、また来なさい」とのことで、ワイナリー通いの日々は終了しました。

 

車がありますし、訪問したい産地、生産者も数えきれないほどだったので、11月以降私はフランスのみならずヨーロッパの有名産地を旅して回りました。

 

しかしそんな生活ばかり続けていくわけにはいきませんし、せっかくビザがあるので働きたい!と、ボルドーで評判のビストロ・デュ・ソムリエ Bistro du Sommelier を訪れました。

※注 同名のお店がパリにあります。元世界ソムリエコンクール優勝のフィリップ・フォール・ブラック氏がオーナーの有名店ですが、こちらのボルドーのお店(オーナーはエルヴェ・ヴァルヴェルド氏)とは全く関係がありません。

 

このお店を選んだ理由ですが、まずは何といってもこのお店がボルドーでもトップクラスの「ワイン」ビストロであることが挙げられます。ボルドーワインがほとんどですが、ボルドーでワインを飲むならここ!と断言したいお店です。日本の雑誌などでも紹介されています。あと、私は日本でフレンチ・レストランの経験があったことと、ボルドーで住んでいた家から近いこと(!)などの条件が重なりました。理想的な職場ではありませんか!

 

まずは普通の客として食事に行きました。明るめの店内、サービススタッフは半袖の黒いシャツにGパンといった服装です。テーブルには布のクロスではなく紙が敷いてあり、客が帰るとサービスの人はさっとはずして新しいものと替えるようです。実にカジュアルです。ワインリスト(本のようなものではなく、大きな1枚の紙です。)を見せてもらうと... 

 

すごいです!1000円以下のハーフボトルから、10万円以上の「ペトリュス」まで!レストランでこの価格は驚きです。中には、ワインショップで買うより安い値段でオンリストされているものもあります!

 

ここで働いてみたい!と思いました。オーナーを呼んでもらって、早速交渉開始です。

 

「ここで働くことはできますか?」

 

「...いいよ。」

 

軽っっ!!

 

驚きました。なんて簡単な交渉でしょう。

 

実はこのお店、過去に日本人が何人か働いていて、その人たちがいい仕事をしてきたために、日本人に対する信頼があったようです。

 

実際に働き始めるまでは、書類の提出などがあり(ラトゥール・マルティヤックのときも苦労しました...)、年が明けてからの勤務になりました。

 

緊張の出勤初日、まずは改めてオーナーに挨拶です。ソムリエですが、元ラグビー選手だったようで(店内にはラグビー関係のオブジェや写真が飾られています。)、かなりいかつい体型です。オーナーは自ら接客をすることはほとんどありませんでした。

 

シェフ・ソムリエはジャン・ジャックさん。私はソムリエとして採用されたので、彼についていろいろ教えてもらうことになります。店内は広いので、もう一人ソムリエのブルノさんがいます。彼も素晴らしいソムリエでした。メートル・ド・シェ(料理サービス係のチーフ)は仕事ぶりがすごいジャン・ミシェルさんといつも冗談ばかり言うフランシスさん。他にサービス係が5人ほど、といった構成です。

 

シャトーで働いた経験はあったものの、レストランで働くとなるとまた勝手が違うので、緊張の日々でした。しかし日本のレストランで働くのとは異なる点が多く、楽しくもありました。

 

日本では、レストランで働く人を「ウエイター」としてしか見ませんが、フランスではサービス係を「ジャン・ミシェルさん」などいち個人として認識しているようです。なので人と人との距離が近いというか、心の通い合う会話がたくさんできました。

 

次回は、ビストロ・デュ・ソムリエでのソムリエとしての仕事をご紹介したいと思います。

 

 

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ワインコラム 第13回 ボルドー市街編

ボルドーといえばワインを連想される方がほとんどかもしれません。

でも実際にボルドーに行かれた方は、ボルドー市内にほとんどワインらしきものがなくて(かつ特に見どころもなくて)びっくりされたかもしれません。

 

今回は、1年間暮らしたボルドー市内のお話です。

 

ボルドー地方の中心都市、ボルドー市はフランス5番目の大都市です。

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私がこの町に初めて来たのは2000年のことでした。当時はトラム(路面電車)がなかったのですが、私がワインの勉強のためにボルドーに到着した2004年の71日は、偶然にもトラムが開通した日でした。古い(汚い?!)ボルドーには似つかわしくない近代的な外観のトラムはかっこよく見えましたが、これから先このトラムに振り回されることになるとは思ってもいませんでした。

 

今日現在ではきちんと動いている(はず)と思うのですが、開通後しばらくは普通に走っていることのほうが珍しいような有様でした。ボルドーのトラムは電気で動いているのですが、線路には電線がかかっていません。電力を路面から供給しているようなのですが、これがうまくいかず、止まる止まる... トラムが開通した結果車線が狭くなり、バスの運行も減ったのでトラムが機能しないとタクシーくらいしか交通手段がなくなってしまいます。タクシーもつかまらず、町の中心から当時住んでいたボルドー大学の寮まで90分ほどかけて歩いたことが何度かありました。

 

さて、ボルドーの町ですが、中心の中心以外は何時間かけて歩いてもあまり面白いものはありません。ヨーロッパ規模で見ても最大級の大きな広場であるカンコンス広場から、小さいけれど美しいガンベッタ広場あたりが商店も多く、観光できるポイントです。その他の見どころとしては駅前から直線で結ばれているヴィクトワール広場からカンコンス広場にかけて長く続く歩行者天国であるサント・カトリーヌ通りが面白いくらいでしょうか。市内にはワインのシャトーもありませんし、必見の美術館もありません。

 

このように書くとこれからボルドーに行かれる方は失望してしまうかもしれませんね。良いところを挙げると、ちょくちょくイヴェントが開催されることでしょうか。巨大なカンコンス広場はよく会場として使われます。ボルドー地方のワイン生産者が集まる試飲会や、フランス全土からの伝統品の見本市、クリスマス時期にはマルシェ・ド・ノエル(フランス語でクリスマスのことをノエルNoëlといいます。)など...

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ワイン好きな方が気になるワインショップですが、数こそ少ないもののボルドーワインの品ぞろえはさすがです。カンコンス広場付近にヴィノテーク、ランタンダン、マグナム、バディなどの優良ショップが固まっています。よく通ったものです。

 

あとはマルシェ関係が面白いでしょう。一般的にはマルシェは決まった曜日に決まった場所に出ます。新鮮な魚や野菜、自家製の肉加工品などの食材マルシェや、掘り出し物(がらくた?)が集まる蚤の市など様々ですが、ヴィクトワール広場の近くに常設の屋内マルシェ「カプサン」があります。ボルドーの特産品がいろいろ売られていて、見ているだけで面白いですよ。

 

最後にレストランをご紹介します。町の規模の割には良い店が少ないのが残念ですが、良いお店ももちろんあります。まずご紹介したいのが「ラ・チュピナ La Tupina」です。ボルドー料理というよりも南西地方を中心とした南フランス料理のお店なのですが、店を入ると目の前にある昔ながらの暖炉を使った料理には温かみ(とボリューム!)があり、素直においしいです。シラク元大統領が密かに来店したためにその名がひろまりました。ワインリストも優良です。

 

もうひとつご紹介したいのが、恐らくボルドーでワインをたっぷり飲むには最高の店「ビストロ・デュ・ソムリエ Bistro du Sommelier 」です。ディナータイムにも紙のテーブルクロスが敷かれているような気軽なお店で、料理もサービスもカジュアルなのですがボルドーワインの品ぞろえには目を見張るものがあります。しかも安い!

 

他にミシュラン・ガイド星付きのお店が数件ありますが、私のお勧めは上記2店です。ボルドー市内ではないのですが、ボルドーワインの心臓部、メドック地方のポイヤック Pauillac村にシャトー・コルディアン・バージュ Château Cordeillan Bagesというレストランがあります。ミシュラン2つ星の、ボルドー地方トップクラスのレストランです。若きシェフによる創作的かつ地元の食材を重んじる料理は重厚でエレガントなボルドー・ワインと最高の相性を示します(特にポイヤック村の仔羊 Agneau de Pauillac)。

 

いろいろ書きましたが、しばらく住んだ町ですから、私はボルドーが好きです!カンコンス広場のすぐ近くに観光案内所がありますので、これからボルドーに行かれる方はそこで最新の情報をもらうと旅が充実するでしょう。

 

次回は私が働いていたビストロ・デュ・ソムリエ Bistro du Sommelierのお話です。

 

 

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ワインコラム 第12回 ボルドー研修編 その4 シャトーでの日々の話

私はボルドーのシャトー・ラトゥール・マルティヤックで2004年の9月と10月に仕事をさせてもらったのですが、この時期はワイン産業で最も忙しい時です。2004年は9月上旬に白ぶどうの収穫を行い、9月末から10月半ば頃にかけて黒ぶどうの収穫を行いました。収穫、醸造についてはコラムの9回、10回、11回で書いたとおりです。

 

今回は、収穫、醸造以外のお話をご紹介いたします。

 

白ワインの仕事がひと段落すると、黒ぶどうの収穫が近づいてきます。毎日畑に出て、広い畑の様々な場所から黒ぶどうのサンプルを取り、シェ(醸造所)に持ち帰ります。シェでそのぶどうを搾り、果汁の糖度、酸度などを計り、収穫日を決定するわけです。

 

みなさん、ぶどうを搾ったことがありますか?本格的な醸造では機械を使ってやりますが、バケツ一杯ほどのサンプルは手でぶどうを潰します。ボルドーの黒ぶどうは粒が小さく、果皮が厚く、けっこう力を入れないとうまく果汁が出てきません。思ったより大変な作業でした。

 

シャトー・ラトゥール・マルティヤックではワインの熟成にバリック(225リットル容量の樽)を使うのですが、毎年新樽を購入する一方で、1年前、2年前の使用済みの樽も使います。ワインを樽に入れる時期が近付くと、古樽を洗う作業をします。どのように樽を洗うかと言うと、シャトーの一角に噴水状に水が出る棒があります。その棒を樽に空いている小さな穴に入れ、洗浄します。そこまで樽を運んでいくのですが...

 

中身が空の樽はなんとか持ち上げることができます。しかし樽を移動させるときにいちいち持ち上げて運んでいては体がもちません。熟練したシャトーの従業員は、軽やかにすいすい樽を回して移動させます。私も挑戦してみたのですが、これが難しい!まっすぐ進みませんし、スピードは遅いし...樽を洗う作業は大変でした!

 

洗うと言えば、忙しい醸造期間の間、一番大変だったのは一日の仕事の最後に行う清掃作業でした。

 

季節労働者を含む収穫部隊は17時頃に仕事が終わると解散!になるのですが、醸造チームの仕事はまだまだ続きます。ぶどうが新鮮なうちに処理を終えると、その日に使ったあらゆる道具を洗います。カジェット(収穫に用いる小さなかご)、プレスマシン、長いホース、ベルトコンベアー...全てです!

 

一番大変だったのは床かもしれません。シャトー・ラトゥール・マルティヤックはそれほど大きなシャトーではないのですが、それでも床に散らばったぶどうを隅から隅までかき集めて、水で流すのは時間がかかりました。そこまでやるの!?というくらいきれいに掃除をしていましたが、考えてみると食品を造っているわけですから、当然ですよね。

 

シェはぴかぴか、体はぐったりで家に帰る日々でした。でも、楽しかったです!同僚は親切でしたし、ぶどう畑に囲まれて、おいしいワインを造ることができたのですから!

 

同僚といえば、私の他にも「研修生」が数人いました。シャトー・ムートン・ロートシルトの(当時の)醸造長の息子さんや、フランス南西部でワインを造っている一家の跡取り娘、ボルドー大学の学生、イスラエルからワイン造りを学びに来ている人まで様々でした。

 

シャトーの従業員で面白かったのがオーナーと生年月日が同じというギイおじさん。優雅なオーナーと対照的に樽のような体型をしていて、少しとぼけたようなギイさんはみんなの人気者でした。彼は特に樽関係の仕事を任されていました。シャトーを訪問したことがある方は、樽熟成室に整然と樽が並んでいる様に感動した経験がおありかもしれないですが、ギイおじさんは測量技師のような感じで、糸を使って何やら測り、樽をきれいに直線に配置していました。

 

あるとき、樽を少しだけ動かしたい場面があったのですが、その時に中身が入っている樽をギイおじさんが持ち上げた時は拍手喝采でした。ものすごく重いですから!!今でも信じられません...

 

シャトーでの2ヵ月はあっという間に終わってしまいました。私はボルドーに1年間住んでいたのですが、残りの10ヵ月はワイン産地を回ったり、近所のビストロで働いたりして過ごしました。

 

次回は、ボルドー市内をご紹介いたします。

e382b7e383a3e38388e383bce5a495e784bce38191シャトーの畑。 

 

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ワインコラム 第11回 ボルドー研修編 その3 赤ワイン醸造の話

今回は赤ワイン醸造のお話です。

 

白ワイン同様、ぶどうがシェ(醸造所)に到着するところから、醸造チームの仕事が始まります。

 

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白ワインの場合と違うのは、赤ワインには黒ぶどうが用いられることです。そして、黒ぶどうの収穫の日から、シェの外側にはベルトコンベアーが設置されます。カジェット(小さなかご)に入っている収穫されたぶどうは、まずベルトコンベアーにあけられます。ベルトコンベアーの左右には人がいて、ぶどうにまぎれている葉っぱなどを取り除きます。

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続いて、ぶどうの房は除梗破砕機を通過します。この機械、シンプルな構造なのですが、金属製の筒の中でプロペラが回っているようなイメージです。ここを通過するとぶどうの実が梗(ぶどうの房の、軸の部分)から外されて粒が出てきます。出てきたぶどうの粒は新しいベルトコンベアーの上に導かれます。こちらのベルトコンベアーは2つにわかれていて、最初の部分は振動しており、ここで余分な水分などが落とされます。次の部分は振動していない普通のベルトコンベアーです。両脇に人が配置され、手作業でぶどうの粒にほんの少しだけ残っている梗などを取り除きます。

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この工程を選果 Tris トリ )と言います。

 

単純な作業ですが、高品質のワインのためには非常に重要な工程です。ボルドーでは偉大なヴィンテージを除き、カベルネ・ソーヴィニヨン ( Cabernet Sauvignon )主体のワインにピーマンのような青野菜の香りが見られることがあります。これは完熟していないぶどうに因るもので、少しならよいもののあまり歓迎される香りではありません。この香りを少しでも和らげるために、選果をするわけです。

 

ピーク時には、20人くらいで選果をやりました。2004年のボルドーは、9月後半から雨が降り続きました。辛口ワイン用の白ぶどうと、黒ぶどうの中で比較的早熟なメルロ ( Merlot ) はよかったのですが、晩熟の黒ぶどうカベルネ・ソーヴィニヨンは雨の影響を受けてしまいました。10月の初旬に選果をしていて、体が震えるほど寒かったのを覚えています。

 

選果は単純な作業なのですが、次々と流れてくる美しい黒い粒をひとつひとつチェックするので目が疲れます。それなりに集中力も必要なのですが、フランス人がこれをやると... 

 

まず、いたずら好きな人が誰かにぶどうの粒を投げつけます。当てられた人は「あれ?」と回りを見渡すのですが、投げた当人は知らんぷりです。これが数回続くと、投げるほうもエスカレートしてきてひとつかみのぶどうを投げつけ、投げられたほうもやり返して...

 

...大変です。

 

こんな時に限って、オーナーがやってくるんですよね。

 

オーナーは温厚な紳士ですからいきなり怒鳴ったりはしません。でも苦い顔をしています。

 

初めてこの「ぶどう合戦」を見た時はびっくりしました。栽培チームが大事に育てた、高級ワイン用のぶどうを投げて遊んでいるのですから。でも、収穫は一年で一番華やかなイヴェントですからね。シャトーで働いている人もテンションがあがるのでしょう。

 

話がそれてしまいました。選果はこのように人件費がかかるので、高級ワイン用の工程です。結果、本当に美しいぶどうのみが醸造に回されます。

 

選果された「エリートぶどう」たちは圧搾機で搾られることなく、そのままタンクに送られます。大きな容量のタンクにぶどうが満たされると下部のぶどうは潰れて、果汁が出ます。その果汁がアルコール発酵を始めます。発酵が始まると二酸化炭素が出て、ぶどうの皮や種などの固形物がタンクの上に浮いてきます。これをガトー(gâteau )とかシャポー ( chapeau )と呼びます。ここでは果帽と呼びましょう。赤ワインの色素、渋みなどの重要な成分がこの果帽に含まれているため、タンクの上に浮いていては困ります。シャトー・ラトゥール・マルティヤックでは、ルモンタージュ( remontage )を行いました。ボルドー地方で一般的に赤ワイン醸造に用いられるテクニックなのですが、タンクの下部から果汁を引き抜き、ポンプを使ってタンクの上にワインを送り、タンク上部に浮かんだ果帽にふりかける作業です。

 

remontage1タンク下部から果汁を引き抜いたところです。甘い果汁のムースはどんなレストランでも食べられない絶品デザート?!

 

私はルモンタージュを担当しましたが、大きなステンレス・タンクの上に登って装置を固定しなければならず、危険な作業です。力も要ります。本当に、ワイン造りは肉体労働です!

 

ルモンタージュには果帽から色素、タンニンなどを抽出するほかに、発酵中のワインを空気と触れさせたり、タンク内のワインの温度を均一化するなどの目的があります。そのため、発酵が盛んな時期には一日に数回ルモンタージュを行うのですが、発酵が落ち着いてくると回数を減らしていきます。

 

こうしてアルコール発酵が終わり、出来上がったワインは果帽とさよならし、樽に入り、熟成工程に移ります。ここから先は白ワインと同じ道を歩みます。ただ、赤ワインの場合はバトナージュは行いません。

 

以上、簡単ではありますがワイン醸造の話でした。次回は、その他のシャトーでの仕事、出来事についてのお話です。

 

 

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ワインコラム 第10回 ボルドー研修編 その2 白ワイン醸造の話

無事に収穫が終わると、今度は醸造所(じょうぞうじょって言いづらいですよね!ボルドーでは醸造所のことをChaiシェと言います。以下、醸造所をシェと書きます。)が忙しくなります。

 

せっかく収穫した新鮮なぶどうも、時間とともに腐敗に向かい劣化していきます。迅速にぶどうを処理することが重要です。トラクターでぶどうがシェに着くと、カジェット(ぶどうが入っている小さなかご)が次々に運ばれてきます。私の仕事は、カジェットを持ち上げてぶどうをプレス機に入れることでした。小さなかごといっても10kgほどあります。少しやるだけならよいのですが、かごを持ち上げてぶどうをあけてという作業を延々とやっているとかなり疲れます。肉体労働です。

e38397e383ace382b9e6a99fe381b8プレス機にぶどうを運ぶコンベアーです。ここにぶどうをあけます。

 

 

プレス機にはいろいろなタイプがあるのですが、シャトー・ラトゥール・マルティヤック (Latour-Martillac) で使用していたのは円筒形の金属のもので、中にはゴム風船のようなものが入っています。作動させるとゆっくりとゴムが膨らんで、ぶどうがその圧力で搾られるわけです。得られた果汁はタンクに移すのですが、澄みきっておらず、低温で半日ほど静置しておきます。すると果汁に含まれていた誇りやぶどうの果肉などがタンクの底にたまり、きれいな果汁が得られます。この静置する工程をデブルバージュと呼びます。

 

こうして得られた果汁を、まずは大きなステンレス・タンクに移します。そこでアルコール発酵が始まります。アルコール発酵は酵母という微生物が行うため、まずは温度調節の容易なタンクで始めるわけです。発酵が安定してきたら、バリックと呼ばれる225ℓ容量の樽に移し、引き続き発酵を続けます。樽で発酵させると、より空気との接触も増え、樽からの成分がワインに与えられ、より複雑な風味のワインになります。

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アルコール発酵が終わると、そのままバリックでの熟成に入ります。発酵中は気の抜けない日々が続きますが、発酵が終わるとひと安心です。仕事も減りますが、この時期にやることがあります。バトナージュです。樽の丸い小さな穴から棒を入れて、中のワインをかき混ぜます。樽の中にはワインと、発酵の役目を終えた酵母の死骸(=澱)が入っています。この澱はアミノ酸などのうまみをワインに与えてくれるので、よりワインと接触させるためにかき混ぜるわけです。樽が二段に重ねられた、それほど広くはないセラーで樽に上りながら延々と作業を続けたものです。懐かしいです...

 

発酵後1ヵ月ほどでしょうか、回数を徐々に減らしながらバトナージュを続けます。バトナージュが終わるとワインは静かな熟成に入ります。この間、人はあまりワインに手を出しませんが、ウイヤージュという重要な作業があります。これは樽にワインを移してから生じる作業です。樽は完全密閉容器ではありませんので、少しずつワインが蒸発して目減りしていきます。するとワインが過度に空気と接触し、望まない酸化が起こってしまうので目減りしたワインを他の樽から補充します。この作業をウイヤージュといいます。清潔なじょうろにワインをいれ、一つ一つの樽に少しづつワインを補充する地味な作業です。でも、重要なんです。

 

熟成が終わると、ほぼワインは完成です。澱を取り除き、きれいなワインを瓶詰めします。

 

造ってみて実感できたのですが、ワインってほんとうにぶどうそのものなんですね。手造りの、自然なものです。日々、ワインの状態を確かめるためにテイスティングをしたのですが、素晴らしいワインでした!あのワインが時を重ねてどのように熟成していくのか楽しみです。

 

次回は、赤ワイン醸造のお話です。

 

 

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ワインコラム 第9回 ボルドー研修編 その1

2004年の96日から約2ヵ月間、私はボルドー、グラーヴ地区のマルティヤックという村にある、シャトー・ラトゥール・マルティヤック (Château Latour-Martillac) で働く機会を得ました。マルティヤックは大きな都市であるボルドーから南へ10kmほどの、小さな静かな村です。ボルドーといえばワインのイメージが強いと思いますが、実際のところボルドー市内にはぶどう畑はほとんど無く、郊外に広がっています。畑の広がる風景は全くの田舎で、時間がゆっくり流れているような、穏やかな気持ちにさせてくれます。

 

シャトー・ラトゥール・マルティヤックは敷地内に古い塔(tourは塔の意)があり、グラーヴ地区のシャトー格付けで、赤ワイン、白ワインともに特級に列せられています。エキゾチックな香りが特徴の白ワインの評価が以前から高いのですが、世界的ワインコンサルタントであるミシェル・ロラン氏のアドヴァイスを受け、近年では赤ワインの評価も上がってきています。

 

そんな歴史のあるシャトーで、フランス人の中で働くことにどきどきしながら門をくぐりました。働かせていただけることは決まっていたものの、どのような作業をさせてもらえるのか全く聞いていませんでした。まずはオーナーであるクレッスマン氏に挨拶をしました。気さくでいながら、貴族の雰囲気を感じさせる「紳士」な方です。クレッスマン氏に、醸造長、栽培責任者を紹介していただきました。広い畑をもつシャトーが多いボルドーでは、家族経営が多いブルゴーニュなどと異なり、畑部門と醸造部門が分かれていることが一般的です。醸造長はヴァレリーさん、女性です。近年増えているものの、醸造関係の仕事をしている女性は多くありません。実際、醸造は力仕事が多いですから。

 

この日はなんと収穫の初日でした。栽培責任者のドゥニさんを中心とした「収穫チーム」に混じり、畑に向かいます。収穫するのはソーヴィニヨン・ブランという白ぶどう品種です。

sauvignon

はさみとカジェットと呼ばれる小さなかご(このかごに収穫したぶどうを入れます。いっぱいになると「ポーター」と呼ばれるぶどう回収係が空のかごを持ってきて、いっぱいになったかごを車に持って行き、積み重ねます。こうすることによってぶどうがつぶれないようにしています。)を手に、きれいに列になったぶどう畑を進んでいきますが、その大変なことといったら!ぶどうの房がある位置は、地面に近いところなのでどうしてもしゃがまなければなりません。腰が痛くなります。ぶどうを切り取るのもそれほど簡単ではありません。切るべき梗(軸の部分)を見つけないといけないのですが葉やぶどうの房に隠れているものもあり、手探りでやっていて指を切ってしまうこともあります。切り取ったぶどうの房は完璧に健全ではなく、一部にかびが生えているものもあります。そのような部分は切り取って捨てなければなりません。しばらく作業をしていると手はべとべとになり、蜂が寄ってくるし、日差しは暑いし、腰は痛いし...話には聞いていましたが、やっぱり大変でした!

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お昼休憩に、一度シャトーに戻りました。収穫人の昼食はワイナリーが提供してくれることが多いようですが、ここでは自由に使えるキッチンがあり、各自用意します。私はこの日何も持ってきていなかったのですが、何とオーナーの娘さんが特別にお昼を用意してくれました。ステカシェ (steak haché) 、ひき肉のステーキ、おいしかったです!

 

午後は黒ぶどうの畑で「緑の収穫」ということをしました。一見健全そうに見えるものの、一部に緑色の粒が混じっているような成熟の遅い房を切り捨てる作業です。こうすることによって、残された房に養分が集中して濃いぶどうが収穫できます(ボルドーでは黒ぶどうの収穫は10月前後になるのが一般的です。)。切り捨てたぶどうは、文字通り畑に捨てていきます。一見健全で、実際に食べてみてもなかなか甘くておいしいのでもったいない気がしますが、高品質ワインのために必要なことなのですね。最初のうちはどの房を切り捨てればよいか迷いながらやっていましたが、周りの慣れた人たちの仕事は早く、私もどんどん切り進んでいきました。この作業も通常の収穫とやっていることはほぼ同じなので疲れました...1630分ころ雨が降り出し、今日はここまで。

 

9月前半はこのような調子で進んでいきます。黒ぶどうの収穫は10月前後になりますが、黒ぶどうの収穫の頃は既に収穫済みの白ぶどうがアルコール発酵を始めています。一年で一番忙しい時期です。

 

次回は、醸造所にて、白ワインの醸造のお話です。

 

 

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