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ワインコラム 第11回 ボルドー研修編 その3 赤ワイン醸造の話

今回は赤ワイン醸造のお話です。

 

白ワイン同様、ぶどうがシェ(醸造所)に到着するところから、醸造チームの仕事が始まります。

 

merlot

白ワインの場合と違うのは、赤ワインには黒ぶどうが用いられることです。そして、黒ぶどうの収穫の日から、シェの外側にはベルトコンベアーが設置されます。カジェット(小さなかご)に入っている収穫されたぶどうは、まずベルトコンベアーにあけられます。ベルトコンベアーの左右には人がいて、ぶどうにまぎれている葉っぱなどを取り除きます。

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続いて、ぶどうの房は除梗破砕機を通過します。この機械、シンプルな構造なのですが、金属製の筒の中でプロペラが回っているようなイメージです。ここを通過するとぶどうの実が梗(ぶどうの房の、軸の部分)から外されて粒が出てきます。出てきたぶどうの粒は新しいベルトコンベアーの上に導かれます。こちらのベルトコンベアーは2つにわかれていて、最初の部分は振動しており、ここで余分な水分などが落とされます。次の部分は振動していない普通のベルトコンベアーです。両脇に人が配置され、手作業でぶどうの粒にほんの少しだけ残っている梗などを取り除きます。

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この工程を選果 Tris トリ )と言います。

 

単純な作業ですが、高品質のワインのためには非常に重要な工程です。ボルドーでは偉大なヴィンテージを除き、カベルネ・ソーヴィニヨン ( Cabernet Sauvignon )主体のワインにピーマンのような青野菜の香りが見られることがあります。これは完熟していないぶどうに因るもので、少しならよいもののあまり歓迎される香りではありません。この香りを少しでも和らげるために、選果をするわけです。

 

ピーク時には、20人くらいで選果をやりました。2004年のボルドーは、9月後半から雨が降り続きました。辛口ワイン用の白ぶどうと、黒ぶどうの中で比較的早熟なメルロ ( Merlot ) はよかったのですが、晩熟の黒ぶどうカベルネ・ソーヴィニヨンは雨の影響を受けてしまいました。10月の初旬に選果をしていて、体が震えるほど寒かったのを覚えています。

 

選果は単純な作業なのですが、次々と流れてくる美しい黒い粒をひとつひとつチェックするので目が疲れます。それなりに集中力も必要なのですが、フランス人がこれをやると... 

 

まず、いたずら好きな人が誰かにぶどうの粒を投げつけます。当てられた人は「あれ?」と回りを見渡すのですが、投げた当人は知らんぷりです。これが数回続くと、投げるほうもエスカレートしてきてひとつかみのぶどうを投げつけ、投げられたほうもやり返して...

 

...大変です。

 

こんな時に限って、オーナーがやってくるんですよね。

 

オーナーは温厚な紳士ですからいきなり怒鳴ったりはしません。でも苦い顔をしています。

 

初めてこの「ぶどう合戦」を見た時はびっくりしました。栽培チームが大事に育てた、高級ワイン用のぶどうを投げて遊んでいるのですから。でも、収穫は一年で一番華やかなイヴェントですからね。シャトーで働いている人もテンションがあがるのでしょう。

 

話がそれてしまいました。選果はこのように人件費がかかるので、高級ワイン用の工程です。結果、本当に美しいぶどうのみが醸造に回されます。

 

選果された「エリートぶどう」たちは圧搾機で搾られることなく、そのままタンクに送られます。大きな容量のタンクにぶどうが満たされると下部のぶどうは潰れて、果汁が出ます。その果汁がアルコール発酵を始めます。発酵が始まると二酸化炭素が出て、ぶどうの皮や種などの固形物がタンクの上に浮いてきます。これをガトー(gâteau )とかシャポー ( chapeau )と呼びます。ここでは果帽と呼びましょう。赤ワインの色素、渋みなどの重要な成分がこの果帽に含まれているため、タンクの上に浮いていては困ります。シャトー・ラトゥール・マルティヤックでは、ルモンタージュ( remontage )を行いました。ボルドー地方で一般的に赤ワイン醸造に用いられるテクニックなのですが、タンクの下部から果汁を引き抜き、ポンプを使ってタンクの上にワインを送り、タンク上部に浮かんだ果帽にふりかける作業です。

 

remontage1タンク下部から果汁を引き抜いたところです。甘い果汁のムースはどんなレストランでも食べられない絶品デザート?!

 

私はルモンタージュを担当しましたが、大きなステンレス・タンクの上に登って装置を固定しなければならず、危険な作業です。力も要ります。本当に、ワイン造りは肉体労働です!

 

ルモンタージュには果帽から色素、タンニンなどを抽出するほかに、発酵中のワインを空気と触れさせたり、タンク内のワインの温度を均一化するなどの目的があります。そのため、発酵が盛んな時期には一日に数回ルモンタージュを行うのですが、発酵が落ち着いてくると回数を減らしていきます。

 

こうしてアルコール発酵が終わり、出来上がったワインは果帽とさよならし、樽に入り、熟成工程に移ります。ここから先は白ワインと同じ道を歩みます。ただ、赤ワインの場合はバトナージュは行いません。

 

以上、簡単ではありますがワイン醸造の話でした。次回は、その他のシャトーでの仕事、出来事についてのお話です。

 

 

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