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2009-11

ワインコラム 第35回 ワイングッズの話 デキャンタ編

ワインの魅力は、芳醇なワインそのものはもちろん、その関連用品にも及んでいると思います。

 

プルタブを開けて飲むだけの缶ビールと違い、ワインを飲むためにはコルクを開ける道具(最近はスクリューキャップも増えていますが)、グラスなどが必要です。

 

さらに、古いワインの澱を舞わせないためにボトルを静置するためのパニエpanier(籠)、美しいソムリエ・ナイフ、ワインを移し替えるデキャンタ、デキャンタ用の漏斗、コルクを置くプレート...など美しい道具はワインの魅力を高めてくれます。

 

今回は、デキャンタDécanteurについて書きたいと思います。

 

デキャンタは、ワインボトルに入っているワインをボトルから移し替える(この移し替えの作業をデキャンタシオンdécantationもしくはデキャンタージュdécantageと言います。)ための容器のことです。主にガラスでできていて、その形状は様々です。

 

その様々な形状は見た目の美しさのためもありますが、デキャンタシオンに期待する2つの大きな目的を考慮して設計されています。

 

その目的の一つは、「澱を取り除くこと」です。熟成が進んだワインや、若くても瓶詰めの際に清澄もろ過もしていないワインは瓶内に固形物の澱が生じている場合があります。その澱はぶどう由来の自然なものなので、体に悪いものではありませんし、飲んでしまっても大丈夫なのですが、そのざらざらした触感や(主に赤ワインの澱に感じられる)苦みは心地の良いものではありません。細かい澱はワインを濁らせてしまって、ワインの美しい色調を損ねてしまうこともあります。

 

それを回避するために、デキャンタを使います。瓶底の澱だけを取り除けばよいのですが、一般的な手法として瓶内の澱の無い部分のワインをデキャンタに移し替えます。すると、デキャンタには澄みきった美しいワインが入り、もとのワインボトルには少量の(時にはある程度の量の)ワインとともに澱が残されます。

 

これで、私たちは澱に悩まされることなく、そのワインを楽しめるわけですね!

 

さて、もうひとつの目的は、少し専門的な話になります。

 

ワインは、場合によっては「還元」した状態にあるときがあります。このような状態のワインは、茹でた小豆や硫黄のような香りが目立ちます。還元とは酸化の反対の状態なので、酸化させてあげれば還元状態が緩和されるわけです。このようなときに、ワインを酸化させることを目的としてデキャンタシオンを行います。

 

長期熟成タイプのワインを若い状態で飲むときにも、同じ目的でデキャンタシオンをします。

 

以上のように、同じデキャンタシオンという行為でも、目的が複数あります。すると、その目的に合った形状のデキャンタを選ばないといけないわけですね。

 

澱を取り除くことが目的の場合、特に古いワインの場合はなるべくワインを空気と接触させたくありませんので、液面の面積が狭くなるような、縦長のデキャンタがよいでしょう。

 

逆に、酸化を目的としてデキャンタシオンを行う場合、なるべくワインを空気と触れさせたいので、フラスコのように底が広がっている形状のデキャンタを用いる必要があります。

 

以上、ワインをおいしく飲むためのデキャンタの話を書きました。

 

もうひとつ、実はデキャンタシオンの意味があります。

 

それは、レストランでソムリエが行うデキャンタシオンです。ワインが美しいデキャンタに入っていると、見た目も美しいですし、ソムリエに大切に扱われている、という満足感も生まれますよね。

 

3つ星レストランでワインをオーダーすると、デキャンタシオンされることが多いように思います。中には、ミネラルウォーターをデキャンタシオンしてくれたお店までありました!

 

みなさまも、たまには家でデキャンタシオンしてみてはいかがでしょうか?良く飲むお気に入りのワインの風味が少し変わると思いますよ。

 

くれぐれも、こぼさないように(笑)

 

 

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ワインコラム 第34回 チーズの話 カマンベール編

毎回気ままにワインのお話を書いておりますが、今回はチーズのお話を書かせていただきます。

 

もともと私がワインを好きになったのは、チーズとワインを一緒に食べたときのマリアージュによる感動からでした。チーズは子供のころから好きでしたので、フランスに住んでいた時に、いくつかのチーズ村を訪問してきました。

 

今回ご紹介するのはフランス北部、ノルマンディー地方に位置するカマンベールCamembert村です。白カビチーズの代表格で、世界的に有名なカマンベール・チーズ発祥の地です。

 

カマンベールは日本でも人気のチーズですね。国内でも「カマンベール・チーズ」が生産されていますが、フランスのカマンベール・チーズは、正式名称をカマンベール・ド・ノルマンディーCamembert de Normandieと言い、原産地呼称法(A.O.P.)で保護されています。このカマンベール・ド・ノルマンディーは製法、産地などが厳しく定められていて、殺菌をしない生乳で造られなければなりません(逆に、日本産のカマンベール・チーズは必ず殺菌された牛乳から造られます。)。

 

カマンベールに限った話ではありませんが、無殺菌乳から造られたチーズは熟成が進むにつれて複雑な味わいが得られます。同時に、匂いも強くなっていきます。

 

カマンベールはポピュラーなチーズですが、無殺菌乳を原料とした、熟成の進んだものはかなり個性の強いチーズだと思います。

 

さて、そんなカマンベール村を訪れることを決めた私は、ちょっとした冒険を強いられることになりました。

 

訪問したのはフランスに留学していたときで、私は学生で、車を持っていませんでした。まずは、パリから北西方面に、リジウーLisieuxという町まで電車で行きました。電車で行けるのはここまで。次に、リジウーから少し南に位置するヴィムティエVimoutiersまでバスで行けました。

 

さて、ヴィムティエに着いたものの、ここから先カマンベール村までの交通手段がありません。いろいろ尋ねてみたのですが、どうやらヴィムティエからカマンベールは近いので歩いて行けるとのこと。

 

道もわからないですし、不安がありましたがとりあえず行こう!と歩き始めました。

 

しかしこのときは不安でした...自分が今歩いている方向が合っているかわかりませんでしたし、周りになにもない田舎道です。方向が合っているにしてもどれだけ歩けばよいのか...

 

ふと道の端を見ると、蛇が車に轢かれて死んでいました。

 

...蛇が出るんだこの道...

 

不安に緊張が加わりました。

カマンベールへの道がこれほど険しいとは!!

 

しかしここまで来て引き返すわけにもいきません。とりあえずまだ明るいし、もう少し歩き続けよう、と歩いていると...

 

ありました!カマンベール村です!!

 

牛がいます。カマンベールのお母さんたちですね。私が歩いているのを見つけると、よほど人が珍しいのでしょうか、56匹の牛たちが柵のほうに寄ってきて、私を追うように歩いてきました。...けっこう怖かったです。

 

しかし世界的に有名なチーズを産するこの村、実際は村というより、数軒の建物の集まり、といった感じです。

 

それでも観光客がくるのか、カマンベールの造り方を紹介するメゾン・デュ・カマンベールMaison du Camembertがありました。あとは、大手乳製品会社のプレジデントの工場が目立つほどで、他には何もありません。

 

しかしこの広い牧場、良質な草、健康な牛たちが、上質なカマンベールの鍵なのかな、と、ここまで来られたことをうれしく思いました。

 

この日の夜は、農家製の、熟成の進んだ(臭い)カマンベールをおいしく頂きました(笑)。

 

さて、カマンベール・チーズと一緒に何を飲みましょうか?王道は、ワイン、ではなくて、同じノルマンディー地方で産するりんごのお酒、シードルでしょう。同じ産地の食材とお酒は不思議と良く合うものです。

 

しかし私はワイン派です!実際にワインを合わせようと考えると、チーズの状態(熟成度合い)が重要になってくると思います。カマンベールが若い状態であれば、まろやかな白ワインや若くてそれほど渋みの強くない赤ワインがいいでしょう。しかし熟成が進んで風味が強くなったカマンベールは、重厚でこくのある赤ワインがいいのかな、と思います。

 

チーズもワイン同様、特定の風土(テロワール)が生み出す、生きている食品で、奥深いですね!

 

 

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ワインコラム 第33回 ボルドー マルゴーの話

世界屈指のワイン産地、ボルドーBordeaux。中でも最も有名な産地として、メドックMédoc地区のマルゴーMargaux村があります。

 

私がこの村を初めて訪れたのは、20009月のことでした。当時私は学生で、フランス北東部、フランシュ・コンテ地方のブザンソンという町に留学をしていました。フランスの学校は夏休みがとても長く、6789月は完全に授業がありませんでした。今考えると素晴らしいですね!

 

私は9月の1ヶ月間、ボルドー大学の短期語学学校に申し込みました。1ヶ月だけのボルドー生活の始まりです。

 

考えてみると、私が真剣にワインの勉強を始めたのはこのころでした。ワインに対する情熱が燃え盛っていましたので、オプションで申し込みできるワイン講座に迷わず申し込んで、どきどきしながら授業を受けていたものです。

 

マルゴーを訪れたのは、そんなボルドー暮らしのときのことです。ボルドーの駅から、電車でマルゴー村まで行くことができます。もっとも、電車は1日に23本しかなかったと思います。

 

友人と3人で、初めてマルゴー村に降り立った時の正直な感想は、「何もない!」でした。マルゴーといえばシャトー・マルゴーChâteau Margauxを始め多くの有名シャトーがあります。そんなシャトー群が林立していると思ったのですが...ひとまず歩いてみることにしました。

 

駅は村の外れにあり、しばらく歩くとシャトーが現れてきます。まず最初に出くわしたのは、シャトー・ラスコンブChâteau Lascombesでした。1855年の格付けで、栄えある第2級に選ばれたシャトーです。恐る恐る敷地に足を踏み入れ、受付に行ってみると、なんと見学可能とのこと!アポなしだったため詳しい訪問はできませんでしたが、樽熟成庫などを見せてもらいました。

 

シャトー・ラスコンブは2001年からオーナーが替わり、ラベルも変わりました。なにより、ワインの品質が格段に上がっています。私の大好きなシャトーのひとつです!

 

さて、シャトー・ラスコンブを出てしばらく歩くと、マルゴー村の中心部に出ました。23軒のワイン屋さんや小さな郵便局、レストランなどがあります。私たちは、せっかくマルゴーまで来たので、絶対にシャトー・マルゴーを見たい!と思っていたのですが、いまひとつどこにあるかわかりません...

 

少し離れたところに、木に囲まれた美しいシャトーが見えます。そこまで歩こう!となりました。近くに見えても、一面ぶどう畑の土地を歩くと、けっこうな距離があるのですね。疲れてようやくたどり着くと、そこは残念ながらシャトー・マルゴーではありませんでした...しかしここまで来たのだから、訪問させてもらおうと敷地に足を踏み入れると...大型の犬に襲われました!鞄に噛みつかれ、離れません。しばらくするとシャトーの人(飼い主さん)が出てきて止めさせてくれましたが、いやあ怖かったです。話を聞くと大きいながらもまだ子供で、じゃれていたようです。まあ、無断で侵入した私たちが悪いんですけどね。ちなみにその犬の名前は「ペプシ」でした...(コーラか!)

 

さて、また私たちはシャトー・マルゴーを目指して歩き続けます。畑を横切り、ちょっとした草原に出ました。小さな川が流れています。若さゆえに無意味に川を飛び越えてたどり着いたのが...なんとシャトー・マルゴーでした!

 

ふつうはシャトー正面の、美しい並木道から入るのですが、このように裏手から入った人は少ないでしょうね。内部の見学はできませんでしたが、美しいシャトーを間近に見られてよい思い出になりました(通常は、シャトーはいつも門が閉まっていて入れません。)。

marg シャトー・マルゴーの並木道

 

margaux-chateau シャトー・マルゴーのシャトー

 

秋の夜長、エレガントなマルゴーを飲みながら過ごす日があっても素敵ですね。

 

 

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