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2009-05

ワインコラム 第8回 バスク地方、スペインの食文化編

前回までのコラムではヨーロッパのワイン産地を紹介してきました。土地に根付いた素晴らしいワインはそれ単体でもとてもおいしいのですが、郷土料理と合わせるとその魅力は倍増します。今回は南フランスからスペインにかけての郷土料理をご紹介したいと思います。

 

まずはフランス南西部、スペインとの国境付近、ワイン産地で言うとイルレギーがある地方です。この辺りはバスク地方 ( basque ) と呼ばれ、バスク地方自体は南西フランスから北東スペインにまたがっています。独自の文化を持ち、バスク人と呼ばれる人々は独自の言語を話し(フランス側では、もちろんフランス語も通じますが)ます。

 

フランスには全ての町、村の出入り口にその町、村の名前が書いてある標識があるのですが、バスク地方に来るとその標識の文字がフランス語とバスク語の2つの言語で記されてあります。

 

バスク地方が誇る独自の文化は料理にも見られます。トマトやとうがらし、生ハムを使った料理やガトー・バスクと呼ばれるデザートが代表的です。手間暇をかけて素材を昇華させるというよりも、上等な食材をシンプルに調理するタイプの料理が多いようです。特に有名な食材としては、まずはバイヨンヌの生ハムが挙げられるでしょう。南フランスのバスク地方の中心となる町のひとつ、バイヨンヌ周辺で作られる生ハムで、地理的表示保護を取得している上質なものです。薄くスライスしてそのまま前菜に出されたり、ピペラドという野菜のトマト煮込みに入っていたりします。

 

それとは別にこの地方には高級な豚肉があります。ビゴール豚 (bigorre)と言う名の黒豚で、野生に近い環境で高品質な餌のみを食べて育ちます。赤みの強い肉質は実に上質で、豚肉ながら上質な牛肉にも劣らない値で取引されています。Le Noir de Bigorreという生ハムが有名ですが、フレッシュな肉をシンプルに塩、胡椒のみで味付けしたローストも絶品です!

 

私はバイヨンヌで、郷土料理に力を入れていそうなお店を選んで入ったのですが、メニューを見て困ってしまいました。料理名が全てバスク語で書かれていて、どのような料理なのか想像もできなかったのです。サービスの方に簡単に料理を説明してもらい、オーダーしたのはこのような料理でした。

 

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いかなどの魚介類が入ったパイ、きのこと羊肉などの薄いパイ生地包み焼きです。ワインはフランス南西部のベアルン (Béarn) がロゼ、赤とハーフボトルであったので、それぞれの料理と合わせてみました。合わないわけがありませんね!このような組み合わせを経験できるのは至福のひとときです。

 

デザートの前にチーズをオーダーしました。ピレネー山脈の麓であるこの地方は羊のチーズも特産品の1つで、チェリーなどのジャムと一緒に食されます。ミルクが凝縮されたような豊かな風味のチーズは塩味がやや強く、甘いジャムと良い相性でした。デザートには定番のガトー・バスクをいただきました。

 

つづいてスペインです。スペイン料理と言えば、代表格はパエリヤでしょうか?専用の浅くて広いパエリヤ鍋で調理する米料理ですね。みなさまは具は何を想像しますか?海老などの魚介類でしょうか?確かに魚介類のパエリヤはおいしいですが、実際は地方ごとに中身に特徴があるようです。私が数日滞在させてもらったスペイン南東部の友人の家では、うさぎ肉をよく用いるとのことでした。

 

スペインの夜と言えば、バルですね!老若男女が集まり、軽いおつまみを食べながらビールやワインを飲んでいます。バルでの軽いおつまみの総称をタパスといいます。代表的なものとして、スペイン風オムレツトルティーヤや、きのこのガーリックオイル煮、いわしのマリネやたこのパプリカ風味などがあります。手でつまんで食べるような気軽なもので、あらゆる飲み物と楽しめると思いますが、シェリーの産地でフィノと呼ばれる辛口タイプのシェリーを飲みながら食べたタパスはとてもおいしかったです。

 

フランス料理に、テット・ド・ヴォー (tête de veau) というものがあります。テットは頭、ヴォーは仔牛という意味で、直訳すると「仔牛の頭」ということになります。実際は仔牛の頭肉を使った料理のことです。頭肉はゼラチン質が多くねっとりとしているので、マスタードやヴィネグレットなどさっぱりとしたソースを添えることが多いです。私はこの料理が好きで、スペインでこのような表記の料理が目に付いたのでオーダーしました。すると注文を受けてくれたサービスの方が「大丈夫か?」と聞いてきたのです。もちろん、私の好きな料理ですから、大丈夫だと答えたのですが...出てきたのは半割にされた頭蓋骨のローストで、どうやら脳みそを食べる料理のようです!

 

写真があるのですが、載せるのはやめておきます。興味のある方はご連絡ください(笑)。

 

次回から、ボルドーのシャトーでの研修の話に入ります!

 

 

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ワインコラム 第7回 スペイン フミーリャ、カタルーニャ編

昨年はいろいろなワイン産地を回ることができました。今回のコラムでは、その旅の中から前回に引き続きスペインのお話をご紹介いたします。

 

2008823日にマドリッドに入りました。2004年にもお世話になった友人の家に1晩泊めてもらい、翌日電車でスペイン南東部に向かいました。エジンという町に住む、ボルドー時代の友人を訪れるためでした。エジンはひっそりとした小さな町ですが、近くにフミーリャという比較的大きな町があります。この周辺で造られるワインはフミーリャという名前で市場に出ます。知名度はあまり高くないものの、モナストレル(フランスのムルヴェードル)というぶどう品種が主体の果実味たっぷりの赤ワインは、コストパフォーマンスが高く注目すべきだと思います。

 

もともと友人との再会だけが目的でこの地を訪れました。彼はスペイン人ですがボルドー時代の親友でした。何をするという予定もなくエジンに飛び込んだのですが、意外と近くにワイン産地があったため、ワイナリー巡りをすることにしました。ワイン好きはどこへ行ってもワインに惹かれるようです...

 

エジン近くの数件のワイナリーを訪問しましたが、一番印象に残ったのはこの地を代表するワイナリーのひとつ、カーサ・デ・ラ・エルミータです。町から離れ、辺りには何もないような降水量の少ない乾いた大地に、ワイナリーはあります。

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8月の燦々と照りつける太陽が痛いほどです。ぶどうは良く熟し、芳醇なワインに生まれ変わります。さすが上質なワインを造っているワイナリーだけあって、この地にどのようなぶどう品種が適しているか、実にたくさんの種類のぶどうを植えてその適合性を観察しているようです。数年後、この地から思いもよらないぶどう品種による素晴らしいワインが誕生するかもしれません!

 

ワインの話からはそれますが、ここで過ごした数日は素晴らしい日々でした。友人宅には4泊させていただいたのですが、今までになくスペインの生活に浸ることができました。一日の流れを見てみると、8時ころに起き、まだ太陽がおとなしいうちに一仕事済ませます。12時頃昼食ですが、家族そろってゆっくりと、たっぷり食べます。食後はシエスタです。3時間ほどでしょうか、暑さを避け体を休めます。その後また仕事に戻り、夕食は22時過ぎになりますが、昼と比べて驚くほど簡単に済ませてしまいます。一日の食事のメインは昼のようでした。確かに、体のことを考えると夜にたくさん食べるよりいいですよね。

 

意外だったのが、あまりワインを飲まなかったことです。スペインはワインの生産量が世界的に見ても多いのですが、消費量は生産量に比べると多くありません。実際この家族もワインはあまり飲んでいないようでした。まさかスペインまで来て、地元の人に地元のワインを紹介することになるとは思ってもいませんでしたが、現実はこのようなものかもしれませんね。このコラムを読んでいいただいているみなさまも、地元に地酒があるかもしれません。それをうまく説明できるかというと、難しいかもしれないですね。

 

さて、友人と別れ、スペイン北東部に向かいました。これから訪れるのは、スペイン屈指の名醸地プリオラートです。この地のワインはここ数年急激に評価を高めており、要注目です。私が訪問したのは、この地を代表する造り手、アルバロ・パラシオスです。最上のキュヴェ「レルミタ」には110万円もの価格がつけられる、プリオラートのみならずスペインを代表する造り手のひとりです。

 

プリオラートはグラタジョプスという小さな村を中心に広がっています。グラタジョプスは本当に小さな村で、最も近い大都市タラゴナから車を借りて行かざるをえないようなところです。

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私はタラゴナという比較的大きな町で車を借りました。レンタカーはそれほど利用しないのですが、いつも初めての車には苦労しますね。特にマニュアルの場合、ギアがどうなっているのか(特にバック)、サイドブレーキはどれか、など...。慣れない車で、初めての道を恐る恐る走りようやくたどり着きました。しかしこの土地は恐るべきところです。神がかっているように感じられます。畑に入って、ぶどうから「見られている」ように感じたのはこの場所以外にはありません。

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明らかに別格の土地です。小石の多い急斜面の土地に、整然とぶどうが植えられています。素晴らしいワインができるのは自然の成り行きのようにすら感じてしまうところでした。働く人は大変だと思いますが。

 

テイスティングさせていただいたワインも特別でした。上級のワインになるほどピュアさ、繊細さが際立ちます。一般的には高額ワインほど凝縮され密度の高いものになるのですが、最上級キュヴェである「レルミタ」は別格の、浮遊するような不思議なエネルギーを感じました。フランスを代表するワインのひとつ、ロマネ・コンティにも共通する不思議な力だと思います。

 

充実した訪問を終え、私はバルセロナに向かいました。バルセロナの近くに、スペインを代表するスパークリング・ワインであるカバの産地があります。カバはフランスの高級スパークリング・ワインであるシャンパーニュと同じ製造法(=瓶内二次発酵。手間暇がかかり、高級スパークリング・ワインに向く)で造れているにもかかわらず信じがたいコストパフォーマンスを実現しているワインです。ここでも数件の造り手さんを訪れましたが、特に印象深かったのがレカレド社でした。

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カバはシャンパーニュ同様、生産規模の大きな造り手が多いのですが、その中にあってレカレドは家族経営の小規模な造り手です。ぶどう栽培にはビオディナミ(有機栽培の一種。)を採用し、手間暇をかけています。上質なワインの理由は、畑を一目見ただけで十分に理解できました。整然と手入れされ、他の畑と比べて美しさが違います。「上質なワインを造る」というのを何よりも重視しているようで、作業のひとつひとつに手間暇がかけられ、理にかなっていました。

 

ワインの発酵には、スパークリング・ワインでは珍しく樽を使います。こうすることによって穏やかに酸化が進み、複雑な風味のワインができます。一度出来上がったワインを瓶詰めし、さらに2度目のアルコール発酵を起こさせ、ガスを得ます。そして長期間熟成させます。テイスティングしてみると、ぶどうからくる果実味がしっかりとあり、酸味がエレガントで、恐ろしいほどのミネラル感があり、複雑な余韻は長く続きます。スペインのみならず、世界規模に上質なワインでした。

 

残念ながら、価格は上質なシャンパーニュほどするのですが、内容を考えると納得の価格です。ただ、その価格のために売れ行きが順調とは言えないようでした。難しいですね。しかしこのような「情熱」のあるワインは高く評価されるはずです。

 

カジュアルなワインから、今回ご紹介したような偉大なワインまで、魅力的なワインを生み出す国、スペイン。これからも素晴らしいワインをご紹介していきたいと思います。

 

次回は、「食」について書きたいと思います。

 

 

 

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ワインコラム 第6回 スペイン ヘレス編

リオハを後にした私は、スペイン北東部に位置するリオハから、スペイン南東部に位置するヘレス(シェリー)へと向かいました。広大なスペインの縦断です!

 

途中、首都のマドリッドへ寄りました。この町には語学学校で一緒だったスペイン人の友達が住んでいます。マドリッドはとても大きな町で、周りを高速道路が複雑に取り巻いています。初めての大都市での運転にとても苦労しました。初めての土地ですし、スペイン語もわかりません。町の中心に行きたいのですが、どのように行けばよいのかわからないまま、完全には理解できない標識に従い、それらしいところで下りて一度停車しました。しかし、自分が今どこにいるのかまったくわからない状況です。このようなとき、ガソリンスタンドは心強い味方です。言葉が通じなくても、地図と身振りで何とかなるものです。苦労しましたが、なんとか街中までたどり着きました。すぐにホテルにチェック・インし、バルでワインとタパスを食べ、友達に電話し、翌日会う約束をしました。

 

翌日、大きなスタジアムで友達と待ち合わせです。マドリッドに住んでいる友達がひとりと、スペイン西部に住んでいる友達二人が合流しました。その日は私の誕生日でした。ちょうど良い機会なのでみんなで集まったわけです。夜、マドリッドに住んでいる友達の友達がさらに集まり、大宴会が始まりました。ボルドーでも何度も飲んだ仲間ですが、20歳ほどのスペイン人の集団の「祭り」は、それはそれはすごいものでした...

 

無事に(?)翌朝を迎えた私は、スペイン西部から来てくれた友達を駅まで見送り、マドリッドを後にしました。観光らしいことは何もしませんでしたが、楽しい思い出のある町になりました。今でも彼らは大切な友達です。

 

さて、また気ままな一人旅の再開です。スペインはとても広い国なので、途中1泊し、いよいよヘレスにつきました。ヘレスは世界を代表する酒精強化(=アルコール添加)ワインであるシェリーの産地で、正式な名をヘレス・デ・ラ・フロンテラといいます。シェリーはこのヘレス・デ・ラ・フロンテラと、近くにあるサンルカール・デ・バラメーダ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアの3つの町を結ぶ三角地帯で主に造られています。アルバリサと呼ばれる、白い土壌が特徴とされていますが、土壌が本当に白っぽく、感動しました!

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世界地図を見ていただければお分かりになると思いますが、この地はアフリカ大陸に程近く、夏はとても暑いところです。8月の午後、日差しが強い時間帯は外を歩く気はとてもしません。太陽は直線的で、その光線を浴びると煙が出そうな勢いです。

 

スペインの習慣に「シエスタ」とうものがあります。日本語に訳すと「午睡」とでもなるのでしょうか。強烈な日差しが照りつけている時間帯は活動せず(=家で寝て過ごす)、その前後の時間帯に働くようです。レストランのディナータイムが始まるのが21時であったり、私のような旅行者からすると困ってしまうのですが、この日差しを体感すると理解できる習慣です。このような暑い中、疲れ切った体に良く冷えた辛口のシェリーはまさにうってつけだと思います。特に、美しい海岸を持つサンルカール・デ・バラメーダには観光客も多く、バカンス中の人々が昼から(朝から?!)バルでシェリーを飲んでいます。私たちの感覚からすると違和感がありますが、やはり土地のお酒にはその土地ならではの飲み方があるのですね。あの暑い地において、良く冷えた辛口のシェリーは必需品のように思えました。元気が出ますし、たこやいわしのマリネのようなタパスにもよく合うのです!

 

しかしシェリーは実に奥が深いワインです。きりっとした辛口タイプの「フィノ」から、紹興酒のような酸化熟成タイプの「オロロソ」、さらに甘口タイプまであるので、一口にシェリーと言っても様々なタイプがあるわけです。実に魅力的なワインだと思います。コース料理を、それぞれのタイプのシェリーに合わせて楽しめるくらいです。奥が深いですね!

 

ヘレスを出た私は、東周りに北上し、バルセロナを経てフランスに戻りました。途中、私が大好きな芸術家であるダリの美術館に寄りました。ワイン以外での稀な寄り道です。彼の作品は奇抜ですが、美術館の外観もすごいですね!

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初めてのスペインでしたが、かなりの距離を走りました。大変ではありましたが、楽しく、勉強になる旅でした!

 

次回は、昨年再び訪れたスペインのお話です。

 

 

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ワインコラム 第5回 スペイン リオハ編

そそくさとドメーヌ・アレッチャを後にした私は、明るいうちにスペインに向かい車を走らせました。何せ、この辺りには何もないのです!

 

狭い山道をぐるぐると走っていると、まっすぐな道沿いに広がる町に到着しました。すると、ここはもうスペインでした!

 

山道で、いつの間にか国境を超えていたようです。国境らしいものなど何もなかったので、本当にいつスペインに入ったのかわかりませんでした。

 

もう薄暗くなってきているので、今日の宿を探します。予想に反して全くフランス語が通じない(英語も)中、どうやらこの小さな町には空きのあるホテルがないことがわかりました。先へ進み、次の町でもホテルには空きがありません。広場には人が集まっていて、どうやらお祭りをやっているようです。なんとかホテルを見つけようと焦りましたが、最終的に泊る所がみつかりました。しかしそれはホテルではなく、キリスト教の巡礼者専用の宿泊所でした。私のような旅行者は一般的には泊めてもらえないのですが、よほど私が困っているように見えたのでしょうか、泊めていただきました。感謝しています!

 

夜は人生初めてのスペインの夜に期待して、バルに繰り出しました。お祭りと言うこともあって賑わっていましたが、ほとんどが地元の人のようです。生ハムやチーズを食べながら、銘柄のわからない赤ワインを飲みました。私には理解できないスペイン語が飛び交う中でしたが、楽しかったです!

 

翌日、スペインを代表するワイン産地、リオハに向かいました。リオハでは白、ロゼ、赤と3つのタイプのワインが造られていますが、この地を世界的に有名にしているのはテンプラニーリョという黒ぶどうから造られる、果実味豊かな赤ワインです。

 

私が訪問したのは、マルケス・デ・リスカル社です。リオハを代表する老舗のひとつで、スペインを代表する芸術家のひとり、ダリも好んだと言われる造り手です。同社のような大きな造り手さんは、時間を決めてワイナリーツアーを企画しているところが多いです。私はスペイン語が全くできませんので、英語のツアーに参加しました。丁寧に詳細を説明してくれながら、ワイナリーの主要な部分を見学することができました。

 

ここで意外な出会いがありました。10名ほどの私のグループの中に、なんとアンドレ・リュルトン氏がいたのです!氏はボルドーにいくつもの上質シャトーを所有する、ワイン界の重鎮です。別に彼が自己紹介をしたわけではないのですが、あの風貌はまさしくリュルトン氏でした。そっくりさんの可能性もありますが、ワインの試飲の際に案内係の人が「当社のワインの熟成用の樽にはアメリカンオークを使用しています。」と説明した時に、リュルトン氏は「うん、確かにアメリカンオークの風味がある。」と発言されました。一緒にいた周りの人は笑っていました。「このおじいさん、ほんとうにわかっているのかな。」という感じだったのでしょうが、私は「さすがリュルトンさんだ!」と思ったものです。

 

私が訪問した2004年は工事中だったのですが、現在同社はモダンなデザインのホテルも経営しています。とても田舎で、周りに何もないようなところですが、ワイン目当てで来る(私のような?)人を対象にしているのでしょう。興味のある方は泊ってみてはいかがでしょうか?

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また、同社は伝統的なスタイルのリオハを造る一方で、研究を重ね、バロン・デ・チレルという銘柄の現代風の偉大なワインも造り出しています。濃縮感があり、力強いワインですが、伝統が培った安定感があり、スペインを代表する赤ワインのひとつだと思います。

 

さて、私はマルケス・デ・リスカル社からすぐの、エルシエゴという小さな村に泊まりました。なんとこの村に、ボルドーの語学学校で友達になったスペイン人が住んでいたのです!翌日、その友達(アナといいます。)と半月ぶり(たいして時間が経っていないですね。)の再会を果たし、彼女にリオハを案内してもらいました。なんとアナの家族もワイン造りをしているとのこと。小規模で、商売というわけではないようですが、この地の伝統など私が知りたかったことをいろいろ教えてもらいました。この地方はやはりスペイン有数のワイン産地だけあって、小さいながらも美しい村々が点在しています。高台にある村からこの地方の遠景を見渡すと、ぶどう畑がひろがり、エブロ川が滔々と流れているのが見えます。心が癒される風景です。

 

アナにいくつかのワイナリーを案内してもらい、レストランで野菜のスープ、兎の煮込みといった食事を取り、短いながらも充実した時間を過ごしました。リオハ地方は、ワイン産地としても、その風景、町並みの美しさからも魅力的なところだと思います。ワイン好きの方には特にお勧めしたいところです。

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アナにお礼を言い、別れを告げて、私はスペイン中央部に進んでいきます。

 

次回はヘレス(シェリー)のお話です。

 

 

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ワインコラム 第4回 フランス 南西部 2 

アラン・ブリュモン氏のワイナリーを後にした私は、フランス南西部では比較的大きな町、ポーを経て、「ジュランソン」というワイン産地に向かいました。

 

この辺りまで来ると、本当に田舎です。ピレネー山脈に近いこともあり、起伏の多い土地には青々と木が茂っています。

 

ジュランソンは村の名前ですが、同時にその周辺で造られているワインの名前でもあります。ジュランソンのワインには大きく2つのタイプがあります。ひとつは香り高い辛口白ワイン。もうひとつは、ぶどうの収穫を遅らせてぶどうの糖度を高めて造る、甘口白ワインです。この甘口タイプは、場合によっては極上のソーテルヌをも凌ぐ、偉大なワインになり得る可能性を秘めています。

 

私はこの地区で2つの造り手を訪問しました。いずれも、フランス国内外で高い評価を得ています。まずは、クロ・ウルラです。

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15haの畑を所有し、家族で運営しているドメーヌ(=ボルドーでのシャトーに相当する単語。)です。村から離れた所にあり、森の中の小道を進んできます。狭い坂道では車がすれ違えないほどで、対向車が来ないことを真剣に祈りながら、ようやくたどり着きました。小ぢんまりとした醸造所で、野性的な風貌のムッシュが案内してくれました。やはりこの辺りまで来ると、フランス語の発音もボルドーとは異なってきます。聞き取りに苦労しながらも、高品質なワイン造りへの取り組みを伺いました。このドメーヌは、甘口タイプが素晴らしいのですが、同時に私がお勧めしたいのが辛口タイプの白ワインです。キュヴェ・マリーという名で、娘さんの名前が付けられています。熟した果実、ミネラルなどの充実した香り、しっかりとした果実味と酸味を併せ持ち、実に高品質で、きらきら輝くような魅力を持ったワインです。このようなワインに、このような山奥?の静かな場所で出会うと、素晴らしい宝物を見つけたような気分になります(笑)。

 

優しいムッシュに別れを告げ、続いてドメーヌ・コアペに向かいました。

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クロ・ウルラからあまり離れていないのですが、例の山道をくねくねと行かなければならず、ここもたどり着くまで苦労しました。こちらは40haの畑を所有し、一見普通の家のようだったクロ・ウルラよりもワイナリー的です。コアペも辛口、甘口両方造っていますが、このドメーヌは甘口を何種類かに造り分けています。遅摘みの場合、単純に言ってしまうと収穫を遅らせれば遅らせるほど甘いぶどうが収穫できます。そこで、「10月のバレエ」、「11月のシンフォニー」などと名をつけた、それぞれ10月収穫のぶどう、11月収穫のぶどうでできるキュヴェを造っているのですが、「10月のバレエ」より「11月のシンフォニー」のほうが全体的に凝縮感があり、濃密です。その中でも、出色のものが「カンテサンス・デュ・プチ・マンサン」というキュヴェで、収穫は何とクリスマスの頃になるそうです。世界的に見ても12月にぶどうを収穫するのは例外的です。

 

単純に収穫を遅らせると書きましたが、実はこの行為は大変なリスクを伴っています。自然の中に、甘くておいしいぶどうを放置するわけです。鳥獣には常に狙われ続けますし、雹など自然の気まぐれが一度でもおこれば一瞬で収穫が無くなってしまいます。ぶどう栽培者にとってぶどうは本当に財産ですから、リスクを背負いながら財産を放置しておくのは尋常な作業ではないと思います。

 

さて、このワインは、すごいです!!香り、味わいともに濃密で、力強いのですが同時に何とも表現し難いエレガンスが表現されていて、造ろうと思ってもなかなか到達できない領域に入っています。まさに、自然と人が生んだ芸術ですね。思い出すだけでため息が出るような、偉大なワインです!

 

余韻に浸りながら、ドメーヌ・コアペを後にした私は、フランス最南西の産地、イレルギーを目指しました。途中、バスク地方の美しい町、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーを通ったのですが、このあたりで突然霧に包まれて、どきどきしたのを覚えています。ピレネー山脈のふもとの、山地ですので、起伏が多く走っても走ってもなかなか距離が縮まりません。ようやくイレルギーにたどり着いたときには、すでに1730分になっていました。まだ明るいのですが、ワイナリーは閉まってしまう時間です。

 

ぎりぎり滑り込んだのは、ドメーヌ・アレッチャです。ゆっくりお話を伺うことができなかったのですが、テイスティングをし、畑を見られたことは大きな収穫でした。やはりここにも独自のテロワールがあります。起伏の多い土地に、やや高く仕立てられたぶどうがワイヤーで固定され、きれいに並んでいます。この時期はまだぶどうは緑色で小さく硬かったのですが、南の太陽をたっぷりと受けて、甘いぶどうが収穫されるでしょう。

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ここまで来ると、スペインはもう目と鼻の先です。次回はいよいよスペインのお話です。

 

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ワインコラム 第3回 フランス南西部

手に入れたばかりの車でソーテルヌを訪れた翌日、旅支度を整え、私はスペインに向かい出発しました。

 

89日。6時過ぎに出発したのですが、まだ日が昇らず、暗い状態です。フランスの夏の太陽は、朝は遅いですが、日中はさんさんと地表を照らし、夜22時くらいでもまだ明るさが残っているほど、光を与えてくれます。日本のように19時ころ夕食を取ると、明るい中で食事を始め、食後も明るいまま、なんてことになります。

 

さて、ボルドーからスペインを目指す場合、大西洋の海沿いに、海を見ながら国境を超えるのが一般的だと思いますが、私は途中フランス南西地方のワイン産地に寄り道しました。

 

フランス南西部は、知名度こそないものの素晴らしく上質なワインが「隠れて」いる、非常に面白い産地です。私はこの土地のワインが大好きです。

 

まず最初に向かったのは、マディランという産地です。

 

しかし、ここに着くまで大変でした...なにせフランスでの運転経験が乏しい上に、未知の道を行くわけです。車にも慣れていません。ウインカーをだそうとしてワイパーを動かしたことが何度あったことか(笑)!その程度なら良いのですが、一度死にそうな思いをしたことがあります。

 

フランスの国道は、思いもよらぬものが走っています。

 

ボートを積んだ車や、動物(馬など)を積んだトラックのほか、何に使うのか巨大な石柱や、場合によっては家(!)を載せた大型トラックなどが見られます。これらのトラックはしばしば小さな先導車とペアになっているのですが、かなりスピードを抑えて走行しています。追い越し車線が無い時にこのような車に出会ってしまうと大変です。対向車線からこのような巨大トラックがくると、端によけないとぶつかりそうです。同じ車線にこのようなトラックがいると、遅々として進みません。ブロックされた気の短いフランス人ドライバーは追い越そう、追い越そうといらいらしているのが後ろから見ていてよくわかります。私はまだ買ったばかりの車にも、フランスでの運転にも慣れていなかったのでゆっくり運転していたのですが、このような状況が2度、3度と続くと、さすがに追い越したくなりました。

 

目の前にトラックがいます。対向車線を確認すると、長い一本道に対向車は見られません。緊張しつつ、いくぞ!と対向車線に入りスピードを上げます。中古のフィアットは徐々にスピードを上げていきます。

 

...追い越せません。

 

トラックが長いんです!!本当に、日本の常識が通用しない長さです!

 

ようやく追い越せそうになったとき、さらに同じ型のトラックが続いているではありませんか!スピードも乗ってきているし、一気に長いトラックを2台追い越すことにしました。

 

...追い越せません。

 

どれだけの距離を走ったのでしょうか?500m800mかもしれません。もっとでしょうか。すると、対向車が現れました!アクセルを踏めども踏めどもトラックをなかなか抜くことができません。対向車との距離は縮まるばかり。頭の中に、ブレーキを踏んで、またもとのトラックの後ろに戻ろうか、という選択肢も浮かんだのですが、やはりトラックを追い抜くことにしました。結果、対向車とぶつかる寸前?!でクラクションの中、トラックの追い抜きをすることができました。5年前の話ですが、今こうして書いていても手に汗握る経験でした。

 

それ以来、安全運転を心がけています!

 

さて、脱線話が長くなってしまいました。無事に生きて(笑)たどり着いたマディランは、地元のtannat (タナ)という黒ぶどう品種から力強い赤ワインを造っている産地です。ワインのほかに、世界3大珍味の一つ、フォワ・グラの産地でもあり、地元のレストランではフォワ・グラを摘出した鴨の肉が供され、マディランと素晴らしい相性を見せています。

 

私が訪問したのは、かのトム・クルーズ氏が自家用ジェットでワインを買いに来ると言われる(本当かどうかわかりませんが)アラン・ブリュモン氏のドメーヌです。ここのワインは渋みの元となるタンニンがたっぷりとあり、若いうちはやや粗い印象を受けるほどなのですが、熟成するに従い洗練さを増していきます。飲みごろになると、他のどんな高級ワインにも見つけることができない独特の高貴さを備えてきます。

 

実際に畑を案内していただき、ぶどうの樹を観察しました。ボルドーから少し南に来ただけなのに、ぶどうの樹の仕立て方が違います。

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ぶどう品種が違うということももちろんあるのでしょうが、やはりテロワール(=ぶどう畑と、それを取り巻く環境)が違うのでしょうね。その土地、気候に合ったぶどう品種を植え、最適な栽培をする。シンプルですが、これが物事の本質ですね。

 

続いて醸造所を見せていただき、テイスティングもさせていただきました。畑も、醸造設備もシンプルながら、一つ一つの作業を丁寧に行うことが偉大なワインへとつながるのだと実感しました。

 

いろいろ貴重な経験をさせていただいた一日でした(笑)!

 

次回は、南西地方第2話です。

 

 

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