Home > Archives > 2013-06

2013-06

ワイン・コラム 第130回 シャンパーニュ地方の話 畑の個性とブレンドについて

関東地方は梅雨真っただ中ですが、この雨季が終われば、真夏が私たちを待ち構えています。

 

暑い季節には酸味がしっかりとした爽やかな白ワインや、スパークリング・ワインに手が伸びますね。

 

この時期になるとワイン専門誌も「スパークリング・ワイン」をテーマにした記事が多くなります。今回は、スパークリング・ワインの中でもシャンパーニュChampagneについて少し考えてみたいと思います。

 

フランス北東部、パリの東に位置するシャンパーニュ地方では、通常の白ワイン、ロゼワイン、赤ワインも造られておりますが、生産されるワインのほとんどはスパークリング・ワインであるシャンパーニュです。

 

シャンパーニュが、いわゆる一般的なワインと異なる点は、シャンパーニュ地方のぶどうで造られる炭酸ガスを含んだ発泡性のワインであることの他に、複数挙げられます。

 

特に大きな点は、複数の収穫年のワインがブレンドされ、ひとつのワインになるということです。

 

一般的なワインは、ラベルに「2010」や「2011」など、そのワインの原料となったぶどうの収穫年が表記されています。消費者は、その情報から、ワインの質を予測し、購入の参考にすることができます。

 

例えば、ワイン売り場に、同じ生産者の「Gevrey-Chambertin」の2009と2010が同じ価格で売られているとします。2009のブルゴーニュ地方は温暖な気候のもとぶどうが完熟し、やや酸味が穏やかでボリューム感のあるワインができた年です。2010のブルゴーニュ地方は、クラシカルな、果実味と酸味のバランスの良いワインが出来た年です。ボリューム感のあるワインを飲みたい気分でしたら2009を購入、ある程度酸味のしっかりとしたフレッシュ感のあるワインを飲みたい気分でしたら2010を購入すれば良い、ということになります。

 

シャンパーニュについては、一部ヴィンテージ入りシャンパーニュ以外の、大半のシャンパーニュのラベルにはヴィンテージが記されておりません。これは、常に安定した品質を保つという目的を果たすために、複数の性格の異なる年のワインをブレンド=アッサンブラージュAssemblage)しているためです。

 

消費者は、難しいことは考えずに、例えばモエ・テ・シャンドンMoët et Chandonのブリュット・アンペリアルBrut Impérialなら、どのボトルも同じ品質であるという前提で安心してシャンパーニュを購入できるわけです。

 

シャンパーニュはアッサンブラージュの芸術、と言われることがありますが、言い得て妙、だと思います。

 

シャンパーニュのアッサンブラージュには、ヴィンテージだけでなく、ぶどう品種といった変数も含まれます。

 

シャンパーニュは単一品種(ピノ・ノワールPinot NoirやシャルドネChardonnayなど)で造られることもありますが、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエPinot Meunier、シャルドネの3品種のブレンドで造られるものが大半を占めます。

 

また、ピノ・ノワールひとつを取っても、ランスReims(シャンパーニュ地方の中心都市。シャガールのステンド・グラスがある立派な大聖堂が有名。)周辺のシャンパーニュ北部のピノ・ノワールと、レ・リセイLes Riceys周辺のシャンパーニュ地方南部のピノ・ノワールでは、明らかに品質が異なります。

Reims ランスの大聖堂

 Les Riceys レ・リセイ

このため、ひとつの安定した品質のシャンパーニュを毎年造るためには、3つの品種のバランス、それぞれのぶどう品種の生産地区による性質の違い、さらに過去のどのヴィンテージのものをどのような割合でブレンドするのか考えなければなりません。

 

未来のシャンパーニュ造りのために過去のワインをストックしておくことは資金面でも大変です。さらにシャンパーニュは必ず瓶内二次発酵方式という手間暇のかかる方法で造らなければならないため、本当に複雑な製造方法であると言うことができます。

 

このように書くと、本来自然の恵み、大地(テロワール)の特徴を表現するはずのワインから、シャンパーニュは大きく離れた工業的な産物と思われるかもしれません。

 

しかしシャンパーニュもワイン。生産者は土地を大切にし、その土地の個性を尊重しています。

 

一番良く知られている例として、サロンSalonを挙げることができるでしょう。単一品種(シャルドネ100%)、単一クリュ(ル・メニル・シュール・オジェLe Mesnil sur Ogier村のぶどう100%)、そして単一ヴィンテージ(複数年のワインのブレンドはせず、1999なら1999のぶどう100%でひとつのワインを造ります。)

Salon 職人 Salonの動瓶職人 

さらに、近年増えている小規模生産者の中には、単一畑のシャンパーニュにこだわるものもあります。

 

このような多様性が、多くの人を引き付け、シャンパーニュは世界中のスパークリング・ワインの頂点に居続けるのかもしれません。

 

次にシャンパーニュを口に含むとき、その香りと味わいの複雑さに注目してみてください。その1杯を造り出すために使われた長い年月、熟練の技が体と心に沁みていくことでしょう。

 

Clos Yは、7月17日のレストラン講座のテーマをシャンパーニュとし、アペリティフからデザートまで、5種類のシャンパーニュでフランス料理のコースをお楽しみ頂きます。注目の生産者オリヴィエ・オリオによる、単一品種(ピノ・ノワール100%)、単一ヴィンテージ(2006)、単一畑(バルモン)の希少なキュヴェも登場します!

 

 

このコラムを読まれて、ご意見・ご感想等ございましたら下記メール・アドレスまでご連絡ください。

vinclosy@aol.com

  • Comments (Close): 0
  • Trackbacks (Close): 0

ワイン・コラム 第129回 ロワール地方の話 ディディエ・ダギュノー編

ワインの品質と価格のバランスは、必ずしも釣り合っているものではありませんが、ワインの価格はワインを選ぶうえでひとつの参考になるのは間違いないでしょう。

 

今回ご紹介するディディエ・ダギュノーDidier Dagueneauは、世界で最も高価なソーヴィニヨン・ブランSauvignon Blancの白ワインを造る造り手です。

 

「ロワールの野生児」

「Enfants terribes恐ろしき子供たち」

 

など、畏敬を込められた数々の呼び名を持つディディエ・ダギュノー氏。

 

素晴らしく品質の高いワインは、造り手の風貌も相まって、カリスマ的な人気を博しています。

Didier Dagueneau ご夫婦で(2005年) 

ドメーヌは、ロワール川上流域、プイィ・フュメPouilly-Fuméのアペラシオン内にあります。このアペラシオンでは、ソーヴィニヨン・ブランによる白ワインのみが生産されています(ディディエ・ダギュノーは、ブラン・フュメ・ド・プイィBlanc Fumé de Pouillyという表記を用いています。)。

 

一般的なプイィ・フュメは、冷涼な気候を反映した、柑橘類やフレッシュ・ハーブの香りを持爽やかな白ワインですが、ディディエ・ダギュノーのワインは別格です。

 

やはり冷涼な気候を感じさせる豊かな酸味を備えていますが、上級キュヴェからはトロピカル・フルーツ系の香りも感じられ、樽から来るロースト香もあります。そして味わいには塩気も感じられ、強いミネラルの芯が通っています。ワインが若いうちは飲むのをじっとこらえて、熟成させてから飲むべき数少ないプイィ・フュメです。

 

この造り手のトップ・キュヴェ的なワインは、石の写真のラベルが印象的なシレックスSilexです。初めてこのワインを飲んだ時のことは今でもよく覚えています。芸術の域。大地からぶどうの樹が吸い上げたエッセンスを口に含んでいるような、スケールの大きさを感じさせてくれるワインでした。

 

その他のキュヴェとして、

 

ブラン・フュメ・ド・プイィ Blanc Fumé de Pouilly

 

ビュイッソン・ルナール Buisson Renard

 

ピュール・サン Pur Sang

 

サンセール ル・モン・ダネ シャヴィニョール Sancerre Le Mont Damné Chavignol

 

ジュランソン レ・ジャルダン・ド・バビロン Jurançon Les Jardins de Babylon

 

などがあります。いずれも素晴らしいワインです。

 

そして、自根(フィロキセラというぶどうの根に寄生する害虫対策として、アメリカ系のぶどうの台木に接ぎ木されていない)のソーヴィニヨンから造られるアステロイドAstéroïdeがあります。

 

私はこのドメーヌを、2005年に訪問させて頂きました。現在では世界中で360以上の造り手を訪問させて頂いておりますが、約束の時間に遅れることはまずなく、大体早く着くのですが、この造り手に限り、道に迷い約束の時間に遅れてしまいました。しかし笑顔で、ワインを試飲させて頂いたのを覚えております。

 

残念ながらディディエ・ダギュノー氏は2008年に飛行機事故で亡くなってしまいましたが、彼が造ったワインはこれから先、何年、何十年と優美に熟成を続けて行くことでしょう。そしてドメーヌは、現在は息子さんたちが引き継ぎ、運営されています。

 

ソーヴィニヨン・ブランというぶどう品種のひとつの頂点を経験したい方、強いミネラル感を持つワインを経験したい方、純粋においしいワインを飲みたい方...是非、ある程度の熟成を経た(できれば8年以上)ディディエ・ダギュノーのワインを飲んでみてください。ワインに対する新たな視点ができるかもしれません。

 

Clos Yは、7月14日のワイン祭りのラインナップに、ディディエ・ダギュノーのブラン・フュメ・ド・プイィ2004も含めております。ご興味のある方はご連絡ください。

 

 

このコラムを読まれて、ご意見・ご感想等ございましたら下記メール・アドレスまでご連絡ください。

vinclosy@aol.com

  • Comments (Close): 0
  • Trackbacks (Close): 0

ワイン・コラム 第128回 アルザス地方の話 ドメーヌ・ヴァインバック編

日本で行われるプロ向けのワイン試飲会の時もそうなのですが、私はワインの造り手さんを訪問して、ワインを試飲させて頂く場合には、口に含んだワインを飲み込まずに吐き出すようにしています(専用の吐器があります。)。

 

造り手を訪問する時は基本的に車で行きますので、飲酒運転をしないように、ということもありますが、多い場合には30種類近くのテイスティングがありますので、全て飲み込んでいられないというのが主な理由です。

 

大抵の場合は口に含んだワインを吐き出すことに抵抗はありませんが、時にどうしても飲んでしまいたくなる、壮絶に魅力的なワインがあります。

 

今回ご紹介するドメーヌ・ヴァインバックDomaine Weinbachは、そのような数少ない極上のワインを生みだす造り手です。

Weinbach 

この造り手は、フランス北東部に位置するアルザスAlsace地方でぶどうの栽培とワイン造りを行っています。この地方のみならず、フランス全土で見ても屈指のワイン生産者です。

 

私がこの造り手を訪問させていただいたのは2008年の9月のことでした。ドメーヌはアルザス地方南部の重要な町コルマールColmarの北西約10km、ケゼルスベールKaysersbergの東側、ぶどう畑の真っただ中、素晴らしいワインを生みだす特級畑シュロスベルクSchlossbergの麓に位置しています。

 

アルザス地方でも、ブルゴーニュ地方のように偉大なワインは偉大な特級畑から生まれることがほとんどです。シュロスベルクという畑は複数の生産者により所有されておりますが、ヴァインバックは最大規模の所有者となっています。

Weinbach4 シュロスベルク 南向きの斜面。 

ドメーヌではたくさんのワインを試飲させて頂きましたが、強く印象に残っているのはこのシュロスベルク畑のリースリングのワインです。

 

ブルゴーニュ地方では、一般的にはひとつの畑からひとつのワインが生まれます(例えば、シャンベルタンと言う畑からはシャンベルタンという赤ワイン、モンラシェという畑からはモンラシェという白ワイン、など。)。しかし、アルザス地方では、ドイツのように、ひとつの畑から複数のワインが造られます。

 

今回、シュロスベルクを例にしてみると、まずはアルザス・グラン・クリュ シュロスベルク リースリングAlsace Grand Cru Schlossberg Rieslingという辛口白ワインがあります。絵に描いたような良質リースリングで、香り高く、果実味、酸味共にしっかりしていて、密度の高い、長期熟成に耐えるワインです。

 

それから、同じ畑の中の、樹齢の古い区画のぶどうによるキュヴェ・サント・カトリーヌ リネディ!Cuvée Sainte Cathrine L’Inédit !というキュヴェがあります。

 

そして甘口ワインも造られます。アルザス・グラン・クリュ シュロスベルク リースリング ヴァンダンジュ・タルディヴAlsace Grand Cru Riesling Vendanges Tardives。いわゆる遅摘みワインで、甘味と酸味のバランスが良く、ミネラル感もしっかりとしている、世界的に見てもあまり他に類を見ないワインです。

 

さらに凝縮感の強いワインが、貴腐ワインであるセレクション・ド・グラン・ノーブルSélection de Grains Noblesです。粒選りで収穫されたぶどうによる、偉大なワインです。世界中のワインはあらゆる人に開かれていて(生産量と価格の問題を除けば)、楽しむべき飲み物だと思いますが、このような次元のワインは、神酒と言いますか、対峙すると自然と背筋が伸び、その世界に引きずり込まれて行くような、特別感のある液体でした。

 

さらにその上を行くのが、カンテッサンス・ド・グラン・ノーブルQuintessence de Grains Noblesです。これもシュロスベルクの畑のぶどうから、しかし特別な年にだけ造られるワインです。このワインは、まさに口に含めば飲み込まずにいられないワインです。もう、どうしたらいいのでしょう。ただただ偉大なテロワール、そして造り手に感動するのみです...

 

アルザス地方のワインは、フランスワインの中でも人気の高いワインだと思いますが、51あるアルザス・グラン・クリュの特徴も含め、まだ深く追求されていない部分が多いように思われます。

 

軽やかでお手頃なワインから、時にはこのヴァインバックのように偉大なワインまで、これからの季節は特にお楽しみただけることでしょう。是非試してみることをお勧めします!

 

Clos Yは7月7日のレストラン講座のテーマを「アルザス」とし、選りすぐったアルザス・ワインを南青山「アンカシェット」の洗練されたフランス料理とお楽しみ頂きます。ドメーヌ・ヴァインバックのグラン・クリュ シュロスベルク ヴァンダンジュ・タルディヴも登場します!ご興味がございましたらご連絡ください。

 

 

このコラムを読まれて、ご意見・ご感想等ございましたら下記メール・アドレスまでご連絡ください。

vinclosy@aol.com

  • Comments (Close): 0
  • Trackbacks (Close): 0

Home > Archives > 2013-06

サイト内検索
Feeds
Meta

Return to page top