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ワインコラム 第2回 ボルドー ソーテルヌ編

前回のコラムでは、私がワインを勉強するために会社を辞め、ボルドーへ飛び込んだところまで書きました。

 

7月いっぱいで、語学学校の寮を出てボルドー市内中心部の住まいに移りました。この時期はとても暑かったことを覚えています。昼間、家の近くの道を歩いていると太陽につぶされそうな感じがしました。

 

シャトーでの仕事が始まるのは9月から。私が8月をどのように過ごしたかというと、とにかく車に乗って、シャトーを訪問しました。

 

中古で手に入れた車はイタリアのフィアット社のやや大型のものでした。幸い?私は日本での運転の経験があまりありませんでしたので、フランスの交通ルールで車を運転することにそれほど戸惑いはありませんでしたが、教習所以来のマニュアル車の運転には最初苦労しました...

 

しかしすぐに慣れ、いよいよシャトー巡り開始です。

 

まず最初に訪れたのは、ボルドーが世界に誇る「貴腐ワイン」の産地、ソーテルヌ地区です。

 

貴腐ワインとは、ボトリティス・シネレアという菌(かび)が付いた、一見腐ったように見えるぶどうから造られる甘口ワインです。実際はボトリティス菌はぶどうを腐らせておらず、ぶどうから水分を奪います。そのようなぶどうを搾ると凝縮された甘い甘い果汁が得られ、それを発酵させると得も言われぬ味わいを持つ甘口ワインができます。こうしてできる、自然の奇跡による極上の甘口ワインを、人は畏敬の念を込めて貴腐ワインと呼ぶわけです。

 

現代ではごく普通のぶどう果汁を原料に、人工的にたやすく甘口ワインを造ることができますが、貴腐ワインのように自然の恵みによる甘口ワインを造るのは非常に手間暇がかかります。自然と真摯な生産者により生まれたこの「黄金の飲む宝石」ですが、生産者は販売に苦労しているようです。

 

砂糖が普及する以前、甘口ワインは王侯貴族だけが楽しめる正真正銘の高級ワインでしたが、砂糖の普及、料理のヘルシー志向により、甘口ワインの人気が無くなってきています。みなさまは、甘口ワインを積極的に日常に取り入れていますか?確かに、現代の私たちに、ゆっくりと時間をかけて甘口ワインを楽しむ時間は取れないかもしれません。しかし、忙しい現代にこそ甘口ワインを楽しむような時間を取ってみてはいかがでしょうか?甘口ワインは通常の赤ワインなどに比べ保存性が高いですから、抜栓後冷蔵庫に入れておけば1週間くらいは平気でもちます。この1杯は、きっと心に効きますよ!

 

少し脱線してしまいました。ソーテルヌ地区についてですが、ソーテルヌという名の小さな村を中心に、バルサック、プレニャック、ボムなどのいくつかの村がソーテルヌという名の貴腐ワインを生産しています。ボルドー市から来ると、まずバルサック村に着くのですが、ここは比較的なだらかな土地です。そこから数km離れたソーテルヌ村近くになると、起伏に富んだ地形になります。土壌も、目に見える表土は前者は砂・粘土質で濡れるとべたっと重そうであるのに対し、後者は小石が混じり、比較的水はけがよさそうでした。このような違いが、ワインの味わいにも影響するのでしょうね。

 

貴腐ワインですが、世界中どこでも造ることができるわけではありません。特殊な環境が必要です。その環境を作るのに一役買っているのが、この土地の場合「シロン川」という小さな川です。収穫期が近づいてくると、この川から発生する朝の霧がぶどう畑を包みます。その湿気によりぶどうにボトリティス菌が繁殖しますが、午後になると霧は消え失せ、太陽がさんさんと照り付けます。こうすることにより、ぶどうは腐りきらず、健全な「貴腐」状態になるわけです。

 

今回私が訪問したのは、「シャトー・ダルシュ」です。ソーテルヌ村のすぐ近くにあり、1855年、ナポレオン3世が作成させた優良シャトーの格付けで、見事第2級に列せられた由緒あるシャトーです。「シャトー・ダルシュ」という名の貴腐ワインのほか、特別に優れたぶどうから造られる「シャトー・ダルシュ・ラフォリー」という特別キュヴェも造っています。生産者と直接話すことができ、いかに貴腐ワイン造りが難しいか、困難かを教えていただきました。貴腐ワインの出来は、まさに自然にかかっています。うまく貴腐が発達すればよいものの、世界的に名の知られたソーテルヌでさえ、理想的に貴腐が着くのは稀なことです。あまり貴腐が発達しない年は、生産者は貴腐状態のぶどうのみ、まさに一粒ずつ収穫しなければなりません!あの広い畑で、ぶどうを調べながら一粒ずつの収穫...考えるだけで、その困難さにぞっとします。ただでさえ収穫は重労働なのに!

 

...貴腐ワインは、ありがたく、感謝の気持ちをもっていただきましょう(笑)

 

貴重な勉強をさせていただいた一日でした。

 

さて、シャトー・ダルシュは優れたワインの造り手ですが、同時にホテルも運営しています。こぢんまりとしていますが、白を基調にした美しい、高級感のある佇まいです。甘口ワイン好きのかたは、この甘口ワインのメッカで美しい、甘い夜を過ごしてみてはいかがでしょうか?

 

帰りは運転を始めて、初めて高速道路に乗りました(私はワインの造り手を訪問するとき、ワインのテイスティングをしますがワインを飲みこまず、吐き出しています。プロの方は皆そうだと思いますが...。飲酒運転は絶対にしません!)。

 

翌日から、語学学校で友達になったスペイン人たちとの友情が熱いまま、スペインを目指します。もちろん、ワイン産地にも行きました。

 

次回は南西フランスのお話です。

 

 

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